PANIC THE・聖陵祭!2

〜頑張れ青少年!〜
あ、先生たちもねv

【前編】





*哀れなスカーレットの場合

 舞台に登場した瞬間、男子学生たちの講堂を揺らさんばかりのどよめきに、翼は一瞬たじろいだ。

「翼ちゃんっ、可愛い〜! さいこ〜!」

 そんなヤジを飛ばされ、翼は思わず拳を握りしめる。


 ――今ヤジ飛ばしたヤツ、赤点にしてやる〜。


 ちなみに、握りしめた拳の内側に納まっている爪には、綺麗にマニキュアが施されていたりして。

 そして、そんな翼を舞台袖から満足げに眺めているのは、『教職員組参入』の首謀者、生徒会長の真路だ。


「見ろよ、大貴。大当たりだな」

 小柄な真路を守るように、ほんの少し下がったところに立つ副会長の大貴は、言われて小さく頷く。

「ほんと、逃げ回る先生たちをどうやって説得しようかと思ったけど、さすがに真路。院長から攻めるとは考えついたよな」

 ところがその院長の姿がない。

「院長、どこ行ったんだ?」

「さあ? 審査員席にはいなかったけど」

「変だな」

 折しも舞台では翼演じるスカーレットの相手役、レット・バトラーの登場でさらに盛り上がっている。

「それにしても『風と共に去りぬ』…とは、院長も大胆なことやってくれたよな」

 真路は立ち姿も凛々しいバトラー船長を目にして大満足だ。

「来年はやっぱり翼ちゃんで、『赤ずきん』の再演するんだって張り切ってたぞ、院長」


 院長から直接仕入れてきたネタを大貴が披露すると、真路は嬉しそうに小さく笑う。

 まったくしてやったりの気分だ。去年の『思いつき』がこんなに大きな実を結ぶとは。


「ああ、そういえば、翼ちゃんが高1でそれやった当時、院長が担任だったんだってな」

「そうか、院長が翼ちゃんを可愛がってるの、そう言う理由もあるんだ」

「けど、『赤ずきん』じゃあ、今年以上に抵抗しそうだな、翼ちゃんは」

「それ、言えてる」


 二人が翼ネタで盛り上がっていると、舞台中央でピンスポットを浴びたスカーレットがふとこちらに視線を流してきた。

 もちろん、袖の小声が舞台中央に聞こえるはずはないのだが…。


                      ♪


 舞台中央で、スカーレットはふと視線を袖に流した。

 そこには今回の首謀者…生徒会長の姿がある。

 その姿を認めて、翼はまたグッと拳を握った。


 在校中、この演劇コンクールには散々な目にあわされてきた。 

 それが就職でここへ戻ってきて、手放しで無責任に――むろん、教師としての監督責任はあるのだが――コンクールを楽しめる立場になって喜んでいたのに…。


 ――恨むぞ、生徒会長・浦河真路…。




「…なんか翼ちゃん、こっち睨んでねえ?」

 大貴が真路の耳元で呟く。

 そして、その呟きに真路はふふ…と小さく笑いを漏らした。

「そんな場合じゃないのにねえ」




「…こら、翼、何をよそ見してる」

 マイクに拾われないよう耳元に囁かれ、慌ててスカーレットはその視線をバトラー船長に戻した。

「ご、ごめんなさい」

「いいから、行くぞ」

 その言葉に被って、二人の唇は激しくぶつかった…………ように、客席からは見えた。

 当然講堂中が地鳴りかと思われるような大騒ぎに包まれる。



「すごいな。練習中はもっとライトなキスシーンだったよな」

「ほんとだな。光安先生、エライ盛り上がってるじゃん」

 大貴の相づちに、真路はこっそりため息を漏らした。


 ――先生、昇と何かあったのかな。 あれはどうも『見せつけ』っぽいんだけど…。 ま、いいか。どうせ今夜は消灯点呼免除日だ。 明日の朝になったらどっちもご機嫌になってるだろ。


 もちろんこの時の真路に、舞台上のバトラー船長の心中などわかろうはずはないのだが、さすがに昇の一番の親友と言うべきか、当たらずとも遠からず…だったようだ。

 この時のバトラー船長の頭の中では、『膝上15cmミニの金髪のドロシーが某生徒会執行部員に迫るの図』が繰り広げられていたとか、いないとか…。




*恋する怪人の場合

「なあ、桐哉、どう思う?」

「ええと、どう…と言われましても…」

 マスクのまま、怪人に間近で囁かれてクリスティーヌは困惑する。

 ちなみにここは舞台ではなく、舞台袖、だ。
 だが…。

「あの〜、先輩、そろそろ僕、出番なんですけど」

「え? ああ、なんだもう出番か…。しっかりな」

「あ、はい」

 主演とは言え、怪人の出番はそう多くない。言ってみれば『美味しいとこ取り』の出演だ。

 舞台に出るのは主に桐哉演じるクリスティーヌ。

 そして…。

 怪人はまた、舞台袖でこそこそと、クリスティーヌの恋人役であるラウルに声を掛ける。

「なあ、加賀谷、どう思う?」

「どうって…。あのな、佐伯。俺は管弦楽部の連中とは、クラスメイト以外ほとんど接点がないんだ。それでも同じ3年って言うならともかく、1年の子のことなんて全然知らないんだからな」

「けど、お前は葵と仲がいいじゃないか」

「そりゃ、葵くんは桐哉の仲良しだからな。自然と彼とも言葉を交わすようになったけど、でも葵くんだって2年生だろうが。お前が言うのは1年の……ええと……」

「宮階珠生」

「そう、それだ。葵くんとその子だって学年が違うんだから…」

「珠生と葵は仲がいいんだ」

「……そんなこと、知るかよ……」

 ラウルはこそっとため息をつく。

 学院ナンバー1の遊び人が『マジで恋をした』というのなら、学院の平和のためにもぜひ応援してやりたい。が、どうしてこいつの『恋』はいつもいつも人騒がせなのか。


「とにかく、だ。俺にとって、珠生の情報が少なすぎる。だから…」

「おい。佐伯、出番じゃないのか。桐哉が困ってるぞ」

「え?」

 見れば舞台中央で、こちらをジッと見つめる困惑顔の桐哉が…。

「しまった。行ってくる」

「桐哉にちょっかい掛けるなよ」

 今となっては本気で心配する必要もないのだが、それでもこんな台詞が出てしまうのは、たんなる習性とでも言うべきか。


                       ♪


「せんぱい〜、遅いですよう〜」

 舞台上、半べそのクリスティーヌが小声で怪人に訴える。

「悪い」

 場面は怪人がクリスティーヌをオペラ座の地下へとさらっていくという見せ場だ。



「でさ、どう思う?」

 BGMが流れている最中、マイクがカットされているのをいいことに、大胆にも怪人はクリスティーヌに『ワタクシ事』を話しかける。


「そんなに気になるんでしたら、告白したらいいじゃないですか〜」

「告白〜?」

「そうですよ、いつも僕に、好きだのなんだの口説き掛けてきたじゃないですか。あの調子ですよ」

 クリスティーヌに諭され、一瞬呻く怪人。そしてBGMが途切れた。


「俺のモノになれ〜!ってか?」


 一瞬講堂中を水を打ったような静けさが覆った。


 マイクのスイッチが入るタイミングだったことに二人が気がついたのは、講堂中が大爆笑に包まれてからのことだった。

 そして、登場シーンでもないのに怒りの形相で舞台に乱入してくるラウル。



 その様子を、反対の舞台袖で真路と大貴が見ていた。

「なあ、オペラ座の怪人って、こういうストーリーだったっけ?」

「…さあ、よく知らないけど…こんなもんだろ」

 …違うって。お二人さん…。


【中編へ続く】

院長行方不明の謎は最終回にて(^^ゞ

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