「第1校舎、1階、ど真ん中。」

〜君の愛を奏でて・番外編〜

その2〜大貴、悟に迫るの巻



 そして夜…。


 俺は残ると言って聞かない真路を無理矢理部屋へ帰して…一人でおいておくと、あいつ、どれだけ根を詰めるかわかんないから…午後8時前、普段なら絶対いるはずのない時間に部屋に戻った。

 今度こそ…と内心に堅く誓う俺は、情けなくも心臓をばくばく言わせながら悟の帰りを待つ。

 お。鍵穴に鍵をさす音が…。
 悟のヤツ、まさか俺がこんな時間に帰っているとは思いもしないだろう…。

「お帰り、悟」

 入ってきた超男前に、俺は不気味なほどにこやかに声をかける。

「随分早いな」

 ふふっ、驚いてやがる。
 けど、悟はそんな表情もさまになってて、一瞬驚いた顔を見せたあとは、いつもの顔に戻って、手にしていた楽譜の束を机においた。

 手に持ってるのは…これだけか?

「え…? あ、まあな…」

 俺の意識はすでに悟の持ち物に向けて飛んでいて、返事なんて生返事もいいところだ。

「生徒会は…? 大丈夫なのか?」
「あ、うん、大丈夫だ。真路も今日は帰したし」
「珍しいな」

 言外に、忙しいんじゃないか?…と言ったニュアンスを漂わせる悟。

「いや、真路最近疲れたまってるみたいだから、たまには休ませてやんないとな」

 といいつつ、俺の目は悟がおいた楽譜に釘付けだ。
 相手も管弦楽部なら、プレゼントが「楽譜」ってこともあるからな。

 でも、どの楽譜にもすでに使い込んだ跡が…。
 …ってことは、ズボンのポケット?
 小さいものなら入るよな。

 けど、悟がポケットを気にする様子はまるでない。
 だからといって、机の周りやそのほかに、これといって怪しいところはないし…。

「うー」
「大貴?」

 あ、しまった。思わず唸っちまったぜ。

「あ、悪い、なんでもない。忘れてくれ」

 慌てて取り繕うところがすでにアヤシイんだけど、この際仕方がない。

「変なヤツだな。お前も疲れてるんじゃないか?」

 ……確かに疲れてっかも。
 こんなに神経とぎすませる事って、普段の学校生活じゃまずないよなぁ。

 ほへ〜っとため息をついた俺に、悟は心配そうな顔を見せた。

「せっかく早く帰って来たんだから、ゆっくりと風呂…」

 ん? 何でそこで言葉を切る?

「だめか」
「何で?」

 きっと『ゆっくり風呂にでも入ってくれば…』と言うつもりだったんだろう。

「いや、管弦楽部の1年ミーティングがさっき終わったところだから、きっと今頃大混雑だ」

 あ、そういうこと。

「今夜はシャワーにしておいた方が無難かもな」
「そーだよな。一年坊主がわんさかの中じゃ、身体も伸ばせないしな」

『シャワー』と言いながら、悟が腕時計をはずした。
 新品だ。

 時計と言えば、プレゼントの定番だけど、残念ながら、悟のヤツは、これを入寮日にはもう身につけていたんだ。

 普通、遠距離の恋人ならともかく、校内にいる恋人なら、プレゼントは絶対当日に渡すはずだ。
 だから、これは除外だよな…。

 でも、その腕時計はすっごく悟の腕に似合っていて…。

「悟、それ、かっこいいな」
「だろ?」
 
 嬉しそうに悟が言う。
 こんな悟も、俺はずいぶんと慣れてはきたんだけど…。

「ちょっと見せて」

 俺がそういうと、悟は一瞬『え?』ってな顔をしたんだけど、すぐにいつもの顔に戻って『いいよ』と言って、それを俺の手のひらに乗せてくれた。

 それは、悟のすらりと鍛え上げられた腕にあうように、見た目はがっちりしてるんだけれど、いざ持ってみると嘘みたいに軽い。

「チタン…か?」
「ああ、そうらしい」

 シルバーと黒の2色使いが大人びてる。
 そんじょそこらの高校生には似合わねーよな。これは。
 さすが、悟…って感じか。

「軽いだろ?」
「うん、びっくりした」
「腕に負担がかからないから、伴奏程度なら、はめたまま弾けるんだ。指揮の邪魔にもならないし」
「ああ、なるほど」

 俺たちと違って、悟はそんなところにも気を配らなきゃなんないんだ。

「高そうだな」

 いや、実際高いだろう。
 そう言うと悟は首を傾げた。

「どうなんだろうな。プレゼントだから」

 なななななななな、なにっ? プレゼントっ?

 俺の目が三角になる。
 悟はそんな俺にちょっと不審そうな顔をして、口を開いた

「春休み中に、家族で買い物に行ったときに…」

 はぁぁぁぁぁぁぁぁ? 家族ぅぅぅぅぅ?

 こいつんち、親父さんはいないから、家族ってーと、あの超美人ピアニストの母上と、あとは昇と守…。

 なんだ〜、くっっっっっっっそう〜。

「どうしたんだ? 大貴。なんか変だぞ」

 悟の表情は『不審』から『心配』に変わっている。

「ごめん。俺やっぱ、頭くらくらしてる」

 そういうと、悟は慌てておれをベッドに追いやった。

「気分は? 気持ち悪くないか?」
「うん、それは大丈夫」

 ごめんな、悟。
 心配かけちまって悪いけど、でも…でも…・。

 お前の恋人は誰なんだよぉぉぉぉぉぉ!!

 俺、それがわかったらきっと元気になるって(涙) 


END

(2002.4.12 UP)

大ちゃん、相変わらずです(笑)

あ? プレゼント、何か知りたい?