翼、故郷に帰る…の、

【ぬるいおまけ】

年齢制限なしなので、安心してどうぞ(笑)






「ちょ…篤人、待てってば…」

 10畳はあろう寝室に敷かれたふかふかの布団の上で、翼は必死で抵抗する。


「どうして。何で待たなきゃいけないわけ?」

 このシチュエーションで…と、覆い被さったまま、ちょっとばかり睨んで見せたら、翼は頬を赤くして、小さな声で『汚れちゃ困るからだめだってば』…と、唇を噛んだ。


「なんだ、そんなこと。じゃあ、汚さないようにするから、だから大丈夫」

『じゃあ』ってなんだとか、どうやったら『そのように』なのか、なんて、翼はぐるぐる考えてしまうのだが、そうこうしているうちに、糊の効いた清潔な浴衣はあっさりと剥がされてしまう。


「篤人ってば……あっ」

 抵抗の激しいときは、さっさと快感の坩堝に落としてしまう。
 そうすれば、快楽に弱い翼の身体はあっさりと落ちる…はずなのだが。


「だ、めだ…ってっ」

 今夜はやけに強情だ。

 まあ、篤人としても、翼の気持ちがわからないでもない。

 何と言ってもここは実家だ。
 けれど離れだし、あたりはしんと静まっていて人の気配はもちろんない。

 標高1200mほどのこの地は、8月下旬ともなると夜は冷えてくるから窓もきちんとしまっている。


「だめじゃないって。ほら」

 強引に足首を掴んで開かせると、さっさとその間に自分の身を置いて、抵抗を封じ込める。

 あまり力には頼りたくないのだが、こうなったら実力行使しかない。

 いくらここが翼の実家とは言え、篤人にとっては楽しい旅行なのであって、恋人同士の旅行となれば、当然えっちはつきもので…。


「…わっ…あ…っ……んー」

 片手で翼の両手を頭上にまとめ、暫く深いキスをして、口を塞いだままに色々と楽しんでいると、やがて観念したのか翼の力が抜けた。


「あ、相変わらず馬鹿力なんだから…」


 初めての時も、こうやって、乱暴ではない力技でいつの間にかその手の中に堕ちてしまったのだ。

 あれは、優等生の身体能力を完全に侮っていた翼の失態ではあるのだが。


「馬鹿力じゃないって。これは単なるコツ」

 コツだろうがなんだろうが、一応翼だって運動能力には自信があるのに、どうやったって力で敵わない。

 これは絶対身体の大きさ所為だ…と、翼はいつも自分に言い聞かせているのだが。


「そう言えば、篤人って中学時代は野球部だったって言ってたっけ」

 ずっと前にそんな話をちらっと聞いたことがある。
 本人にではなく、桐哉から仕入れたネタなのだが。

「まあね」

 気のない返事だが、翼としては興味がある。
 今まで幾度となく聞こうとしては、うっかりしていた話でもあるし。

「ポジションは?」

「ピッチャーだよ」

 何となくそんな気はしていた。しかし。

「もしかして、ピッチャーで4番で主将とか言うんじゃないだろうな…」

「へー。よくわかったね」

「……嘘」

「嘘って、翼が言い出したんじゃないか」


 まあ中高時代にはよくあることだ。
 他の面子が大したことがないばかりに、ちょっと小器用だとチームの中心に据えられてしまうことは。


「もしかして、弱小チームだった?」

「いや。都内でも上位クラスの学校だったから、部員はだいたい5〜60人くらいいたかな」

 ということは、3年間一度もレギュラーになれずに卒業する生徒もいると言うことだ。


「……あっそ。」

 今さらだが、とことん何でもできるヤツなのだった。こいつは。

「でもさ、聖陵には野球部ないじゃないか。なのに何で…」


 そう、聖陵には野球部がない。

 理由は定かではないが、歴代院長が『坊主頭が嫌い』と言う理由で設置を認めなかったという説があって、今ではそれが定説になりつつある。

 他にもちゃんと理由はあるのだが。


「高校で野球をする気はなかったんだ。中学3年間で十分楽しんだから、高校では別の何かを見つけたいと思ってた」

 覆い被さったまま、翼をギュッと抱きしめて…。

「…で、翼を見つけた」

 耳元で、これ以上ないほど甘く囁かれ、翼は指先まで染め上がる。

「俺、聖陵に行って、本当によかった…」

「…うー…」

 12も年上だというのに、未だに『こういうこと』には慣れなくて、照れるばかりの翼は気の利いた愛の言葉の一つも返してはくれないけれど、ギュッとしがみついてくる熱くなった身体が何もかもを雄弁に物語っているから、この先もきっと、気持ちをしっかり繋いだままでいられる…と、篤人は信じてまた、翼を抱きしめる。


 ――この先何があろうと、誰に反対されようと、何を無くそうとも、俺は翼だけは離さないからな。


 覚悟しておいて…と、心の中で囁いて、当初の目的を遂行すべく、翼の身体に熱いキスを落とした。



                 



「…あつと…」

 腕の中で、ぐったりと目を閉じていた翼がほわっと目を開けた。

 庭先にある岩組みの露天風呂は少し熱めの湯だから、湯温調節の利く部屋風呂を少しぬるめに設定して、ほとんど失神状態だった翼を抱えて入ってから5分ほど経っている。


「大丈夫?」

 散々好き放題してしまったと言う自覚は十二分にあるから、ちょっと謝罪も込めて、優しい声で尋ねてみる。


「……まあ…ね…」

 返事をするのも億劫なのか、呟くように言って、また目を閉じる。

 そのまま寝入るのかな…と思っていれば…。


「…ほんっと、体力ありすぎ…」

 呆れているのか諦めているのか、ため息の含有量のやたらと多い声で言って、翼は篤人の胸に顔を伏せた。


「ちゃんと日々鍛えてるからね」

 それも嘘ではないが、実際のところまだ10代なのだから、若さに任せた体力と欲望は有り余っているというのが現状だ。

 けれど、翼の前では『10代』という言葉はできるだけ使わないようにしている。

 どんなに甘えた顔を見せてくれるようになっても、やっぱり翼はどこかに『教師』という顔をちゃんと持っていて、篤人がまだ未成年だと言うことは、見えないところで枷になっているようで。

 だから篤人は、翼が何の錘も感じずにこの腕の中でくつろげるように、殊更に大人の顔をしてみせる。

 まあ、篤人にとってはそれが日常で、苦もないことではあるのだが。


「俺だって…鍛えてる……もん」

「そうだね」

 今度こそ眠りに落ちて行きそうな翼の耳元に小さく言い、張りのある手触りのいい身体を優しく撫でて、眠りへと誘う。


 翼は本当に、可愛くて綺麗だ。

 けれど、これから年を経て、外見がそうでなくなっていったとしても、この気持ちは変わらない。

 翼が翼である限り、ずっと側にいて愛していく。


「俺は将来、介護でも役に立つと思うよ?」

 笑いを含んだ声で言ってみる。

 もちろん、ちゃんと翼が寝入ったのを確認したからだ。
 そうでないと、翼は目を三角にして怒りそうだから。



                 



「何してるの?」

 目を覚ましてみれば、腕の中にいたはずの翼は抜け出して、隣の布団で暴れていた。

「何って、こっちの布団、まっさらじゃんか。絶対ヤバイって」

「…ああ」

 ――なるほどね。

 焦る翼の気持ちは理解できる。
 何と言ってもここは翼の家なのだから。


「こんなもんかなあ」

 布団を被ったりシーツの上で転げたり。

 まるで子供が水場でじゃれているような光景に、篤人は思わず笑みを漏らしてしまったのだが、翼はもちろん真剣だから、その小さな笑い声は聞こえないようにこっそり処理して、翼を背後から抱きしめる。


「もう大丈夫なんじゃない?」

 とは、実のところ本気では思っていないのだが。

 いずれにしても、見る人が見ればわかるだろう。

「そうかなあ」

 枕を抱きしめて考え込む様子がなんだかそそられる。朝っぱらから。


『朝食前にもう一回』とか言ったら殴られるだろうなあ…なんて、楽しい妄想を湧かせながら、 まだ不安そうな翼の頬に『おはよう』とキスを落とし、篤人は腕の中に引っ張り込んだしなやかな身体をギュッと抱きしめた。



お・わ・り

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