「桃の国」さま 100万記念お祝い
アイドル&アイドル
後編
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つむじ風のような影が横切ったのを見た。 身体が浮いたような気がして…何が起こったのかわからないうちに、祐介は仲間たちから引き離されていた。 背中にひんやりとした固い感触があって…我に返った時、祐介は壁に縫い止められるように押さえ込まれていた。 ビルとビルの隙間の、そこは薄暗い路地であった。 「静かに…」 言い置いてから、祐介の口元を覆っていた手をそっとはずし…目の前の少年は、向かい側の壁に背中を預けて腕組みをした。 「悪いな、突然。」 ぶっきらぼうな物言いで、駅の方を顎で示す。 「教えて欲しいんだ。…あいつ、何者なんだ?」 長身の祐介と並んでも見劣りしない、背の高い少年だった。 年の頃も同じくらいか… どういう離れ業をやってのけたのか、嵩高い自分を呆気なく拉致してしまった相手を、祐介は呆然と見つめていた。 しかし、次第に意識がしっかりしてくると、同時に怒りが込み上げた。 「あいつって誰の事? …それ訊く前に、キミが誰だか聞かせてもらいたいね。」 予想していたより冷静な声で言われ、少年は肩を竦めた。 「もっともなご意見だ…」 そう言って、口の端だけで小さく笑った。 「俺は日向 嵐 …。あの中で、お前だけが事情を知ってる口ぶりだったから…。悪かったな、こんな所へ呼び出して。」 呼び出しただって? 引っ張り込んだんだろう…? 心の中で悔しがりながら、祐介は溜息をつく。 「で…? あいつって、誰の事? …何を知りたい?」 祐介の問いに、嵐の方も溜息をついた。 「奈月と…一緒にいた奴の事…。」 言葉に切ない響きが僅かに感じられて、祐介は嵐を訝しげに見た。 「『なづき』…だよ。一緒にいた女の子の事なんて、ほとんど知らないよ。」 「なつきの事じゃない。一緒にいた男の事を知りたいんだ。」 「「…え…?」」 顔を見合わせて、互いに瞳をぱちくりと瞬いた。 駅前の踏み切りが鳴り始めた。 嵐は舌打ちをして… 「電車が来た…見失っちまうな…。」 呟いたと思ったら、不意に祐介に向き直る。 「お前、名前は?」 「あ、浅井祐介…」 反射的に答えてしまった。 嵐は祐介の腕を掴むと、路地から駅へ向かって駆け出した。 「追うぞ、祐介…一緒に来い。」 「お…おいっ! なんなんだよ…」 ほとんど引き摺られながら、祐介はしかし、謎だらけなこの状況をなんとかしないと、脳味噌がどうにかなってしまいそうだ…と、諦めにも似た気分で考えていた。 「じゃぁ…彼女の名前は『愛川奈月』で…若葉台のアイドルで、嵐の親友って訳だ…。」 祐介が確認するように訊いた。 「悔しいけど、今の所な…。」 嵐はボソリと答える。 「で、あいつの名前は『奈月葵』で…聖陵のアイドルで、祐介の親友って訳だ…。」 嵐が同じように訊き返す。 「悔しいけど、永遠にね…。」 祐介が吐息混じりに答えた。 嵐は一瞬、何とも言えないような表情で祐介をまじまじと見て…結局何も言わずに、彼の肩をポンと叩いた。 一応…エールを送ったつもりらしい。 アイドル二人組の後をつけながら情報を交換し合い、互いに大まかな知識は得た。 二人が知り合ったきっかけは、奈月が学食の小百合に面会に来た、あの日である事に間違いはないだろう。 葵には恋人がいて、反対に奈月は色恋に疎いという事などを考え合わせても、どうやらアイドルたちの関係は、祐介と嵐にとっての「最悪の関係」ではない…と見るのが妥当であった。 「それにしても…あの二人、なんであんなに仲良さそうなんだ? …奈月が俺たち仲間以外の誰かと、頻繁に会っている様子はないんだが…。」 嵐が面白くなさそうに言った。 「葵だってそうだよ…。管弦楽部員はハードスケジュールなんだ。その上、僕らは寮生だし…」 祐介も言いながら、ふと何かが記憶の片隅を引っ掻いた。 「待てよ…そう言えば…手紙が…」 「手紙?」 祐介の呟きに、嵐が片方の眉を上げた。 「あ…うん…最近葵に、頻繁に手紙が届くんだ…。」 そこまで言って、祐介は、ああそうだったのか…と、ひとり納得したように吐息をついた。 「謎がひとつ解けた…。手紙の封筒…差出人名はいつも、『奈月』としか書かれてないんだ。誰だって葵の家族か親戚だと思うだろ? …同室の僕でさえ、あの手紙はノーマークだったけど…奈月ちゃんからの手紙だったんだ…」 やられたな…と、祐介は苦笑している。 「文通って事か…? クラッシックなのは、音楽だけじゃないのか?」 「楽器は持ってても、携帯とパソコンは持ってないからね。」 嵐の呆れたような問いに、祐介は肩を竦めて答えた。 「え〜? 葵ちゃん、この店、来た事あるの?」 「うん。前に一度…知り合いに連れて来てもらった。」 奈月が案内した彼女のお気に入りのカフェは、葵も一度だけ訪れた事があった店であった。 葵と祐介をここへ連れて来てくれた人も、確か、デザートの美味しい店だと言って案内してくれた。 この辺りでは有名な店なんだろうか…と、葵は店内を改めて見回した。 明るくてほっとするような空間に、カントリーなイメージの調度品が可愛らしい雰囲気を添えている。 外のテラスにもテーブルがあって、陽だまりの中でティータイムを過ごしている客もいる。 その足元では、毛並みの美しいゴールデンレトリバーが、気持ち良さそうに目を閉じていた。 オープンカフェのエリアのみ、ペット同伴で過ごせるようになっているらしい。 「前に来た時は、祐介も僕もチョコパを食べた…。すご〜く美味しかったよ。」 葵の言葉に、奈月はにっこり笑って頷いた。 「うんうん、チョコパも美味しいね〜。ここのシェフ、元々はお菓子専門の職人さんだったらしくて、デザート全般、何でもお勧めなの。…嵐くんと私は、ここのプリンが大好きで、食べられない日が続くと、禁断症状の発作が出るくらい…。」 奈月の説明に、葵はくすくすと可愛らしく笑った。 「なるほどな…」 「食い気つながり…だったわけだ…」 テラスの植え込みの影から様子を窺っていたのは、もちろんアイドル追っかけ組の二人。 お人形のように可愛いアイドルちゃんが、楽しそうににこにこしている様子は、なかなかに目の保養で…しかもその話題に自分たちの名前が出されて…それだけでちょっぴり幸せになってしまうあたり、かなり不憫な二人である。 なぜ、店内にいる二人の会話が筒抜けなのか… それは、嵐が、人の唇の動きを読めるからであって…しかしその目が、理由は訊くな! …と、凄んでいるのを、祐介はビリビリと感じていた。 愛想の良いウエイトレスが、葵と奈月のテーブルに、二つの器を置いて行った。 ガラスの器ではなく、ぽってりとした陶器の器に、生クリームと小豆と栗…真ん中で、緑色の固まりが、ぷるん…と揺れた。 「緑のプリン…? そうか…新メニューの抹茶プリンだ。」 嵐が呟いた。 抹茶と聞いて、傍らで祐介が溜息をついた。 「葵が飛びついた訳がわかった…。葵、抹茶デザートに目がないんだ。」 祐介の言葉通り、葵はスプーンを口元へ運んで、ものすごく幸せそうに笑みを浮かべた。 おいし〜〜〜v と、唇が動いたのが、祐介にも読み取れる。 アイドルたちの天使の微笑み… 疑惑も嫉妬も霧散した今、祐介と嵐は、思わずうっとりと見惚れた。 頬が緩んで緩んで…美味しいものを食べる時って、どうしてこんなに幸せなんだろう…なんて会話を交わす葵と奈月のテーブルの傍らに、白衣の人物が立った。 ん? …と、見上げると、細身で背が高くて、その上、長い帽子を被っているので、やたらひょろひょろと縦長ぁ〜〜く見える外国人のシェフが、にっこりと笑っていた。 「イラッシャイマセ。新メニューのお味はいかがデスカ〜?」 カタコトよりはちょっとマシ…な、シェフの日本語には、時々怪しげな「勘違い造語」が混じる事を、奈月は知っていた。 「今、幸せを噛み締めてるところです。」 葵は天使の微笑みを彼に向けて言った。 シェフはこれ以上ないほど満足そうに頷いた。 「確か…聖陵学院の、葵クンでしたネ〜? 以前に一度いらして下さった時に、抹茶がお好きだと仰っているのが聞こえテ、このプリンを是非召し上がって頂きたいと思ってイマシタ。」 葵は目を丸くした。 「一回来ただけなのに…どうして…?」 奈月も驚いていたが…しかし、嬉しそうに笑った。 「こちらのシェフは、お客様の事を覚えるのが得意みたい…。そういえば、嵐くんと私の事も、すぐに覚えて下さったんでしたね?」 シェフは優しげな目元を細めて笑った。 「…お客サマにもよりますネ〜。」 それより…と、シェフは声を潜めた。 目元が悪戯っぽい光を放つ。 「お二人は今日のデート、誰にもヒミツだったのデハ?」 葵と奈月は顔を見合わせて頷く。 「別に内緒にしてたわけじゃないけど…」 「うん…誰も知らないかな…」 シェフはウインクを飛ばして言った。 「カレシが、心配してついて来ちゃったようデスヨ〜♪」 ホラ、あそこ…と、シェフの長い指が示した先に、植え込みの影から覗く、見覚えのある顔が二つ…。 葵と奈月は、あんぐりと口を開けて…やがて二人して吹き出した。 バツの悪そうな彼らの顔が、何だかものすごく笑えたのだ。 笑いながら、アイドルは同時に言った。 「「カレシじゃないけどね。」」 嵐の同時通訳によって、一度は地底深くに埋没してしまった追っかけくん二人であったが… そこから救い出してくれたのもまた、アイドルちゃんたちであった。 おいでおいでと手招きをされて… 可笑しくて堪らないといった様子であったが、とりあえず二人は同席を許された。 「ゴメンネ〜♪ワタシの鼻が嗅ぎ分けちゃいマシタ…美少年のニオイには敏感に反応するんですネ〜。」 席へ案内しながら、シェフはお気楽に笑って言った。 しかし、お詫びに抹茶プリンは4つともワタシのおごりネ〜…と、ウインクを寄越した。 ま…いっか… テーブルに頬杖をついて、小さく溜息を漏らした嵐の向かい側で、祐介も同じように頬杖をついた。 二人の目が合った。 祐介の唇が、声もなく、動いた。 ダブルデート、ゲッツ♪ 嵐はくすっと笑って… 右手の親指と人差し指を立てて見せたのであった。 END |
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もも♪さまv 100万アクセス達成おめでとうございます〜〜〜(≧∇≦) 記念すべき100万のお祝いに、こんな感動もオチもないラブコメなんて送りつけてしまって、本当に申し訳ありませんっ(滝汗) でもでも、いつもいつも助けて頂いてばかりで…なんとかお礼をしたいと、気持ちだけは一杯になっておりましたので、衝動を抑える事が出来ませんでした(^^ゞ もも♪さまが「お気にv」と仰って下さる嵐と、我が家の天然娘が登場すると、どうしてもこんなお話になってしまって…☆ しかも、またまた葵ちゃんにくっついているのはマイスイート祐介で…(笑) 悟さまファンの方に叱られてしまいそうです。ごめんなさいね(^^ゞ このお話を書くきっかけは…そう、我が家のサイトオープン直後、もも♪さまとやり取りさせて頂いたメールでした。 奈月というキャラが出てくるお話を、サイトオープンと同時にアップしたのですが、このお話自体は、もう何年も私のファイルにあったものを手直ししたもので… 日参させて頂いていた「桃の国」さまの看板息子・奈月葵くんは、もちろん大好きだったにも関わらず、「奈月くん」というよりは、「葵くん」と認識してしまっておりましたので、名前が被っている事など気付きもしなかったんです。 オープンのバタバタで、そういった気持ちの余裕がないままアップしてしまった自分の配慮の足りなさに、すっかり落ち込んで、もも♪さまにお詫びのメールを差し上げました。 ら… もも♪さまは笑い飛ばして下さって… その上、あろう事か、こう仰いました。 「ダブル奈月でデートでもさせたら面白いですよね〜♪」 もも♪さまの、おっとこまえぶりに惚れ直した瞬間でした☆ それだけではなく、サイト運営のいろいろを優しく教えて下さったり、つまらない愚痴を聞いて下さったり… ヘタレな上に、書くお話のジャンルも違うのに、私がもも♪さまを「師匠」とお呼びするのには、こういった経緯があったのです。 もも♪さまv これからもどうぞ、素敵なお話をたくさん書いて下さいね。 ずぅっとずぅっと、もも♪さまの世界に釘付けにされていたいと思っています。 もも♪さまが前を歩いて下さる限り、みゅんは安心して背中を追っかけて憑いて参りますv もも♪さまのご活躍と、「桃の国」さまの更なる繁栄を確信しています。 この度は、本当におめでとうございました。 みゅんv P.S. このお話を書くにあたって、まつさまより「小百合ちゃん」のレンタルの許可をいただきました(*^o^*) まつさまv どうもありがとうございましたv らびゅ〜〜♪ |
みゅんさま〜!超萌え話(笑)、本当にありがとうございました!
こちらこそ、いつも優しい言葉を掛けていただいて癒されています〜v
私の方こそしっかり掴まらせていただきますので、お覚悟を〜O(≧∇≦)O
これからもよろしくお願いいたします!