いつもは賑やかな聖陵学院なんだけど、今ちょっと火が消えたみたいになっちゃってる。
うんうん。
理由は、学院のアイドル・葵ちゃんが入院しちゃってるから。
血を吐いて倒れて、なんとか一命は取り留めたものの、何日たっても意識が戻らない…って聞いたときは、あたしたち食堂のおばちゃん一同も気が気じゃなくてねぇ、仕事しながら葵ちゃんが早く意識を取り戻すようずっと祈ったりしててさ。
おばちゃんたちも心配だったよね…。
意識が戻ったって聞いたときには全員で号泣しちゃったよ。
いやはや、恥ずかしい話だね。
うちの孫も二人、聖陵に通ってるのがいてさ。上は高等部の３年だけど、下は葵ちゃんと同い年さ。
上の孫は葵ちゃんと血液型が同じだったらしくて、輸血するために病院に行ったんだけどさ。
葵ちゃんの意識が戻らなかった間はそりゃうるさかったよ。
「奈月…俺の血をやったんだから、早く生き返ってくれ〜！」ってさ。
死んでないっての、全く。
ほんまやで。勝手に殺さんといてーな（ｂｙ 葵）
それに、うちの孫みたいな熊系大男の血なんか葵ちゃんにやっちゃったらさ、あの可愛い葵ちゃんが熊みたいになるんじゃないかって、あたしゃ内心心配してたよ。孫にゃ言えないけどさ。
下は下で、「どうして俺はＡ型なんだ〜！」って言ってもしょうがないことをいつまでも言ってて、しまいにゃ両親にくってかかったもんだから、あたしが一発、鉄拳制裁してやったさ。
大丈夫ｖＡ型なら悟クンの時にお願いねｖ
その下の孫は今日、部活の友達と葵ちゃんの見舞いに行ってる。
本当は学院側の配慮で、生徒は管弦楽部の部長になった悟くんと、寮の同室の３人だけが許可されてるんだけど、みんなそんなの守りゃしないらしい。
平日でも20人前後、週末ともなれば、50人からの人間が行くってんだから、葵ちゃんやっぱりみんなの人気者なんだね。
真面目に遠慮してた羽野くんってなんて純粋なのｖ
かくいうあたしも、友人でお掃除の元締めの小巻ちゃんと、一昨日行って来たばっかりさ。まああたしらは学院側の制約なんて関係ないからね。
やはり、小百合の親友は小巻か（爆）
久しぶりに見る葵ちゃんは、ちょっとやつれてはいたけど、顔色もまあまあよくって、ほっと胸をなで下ろしたよ。
やつれた葵も見てみたい…。
昼ご飯も食べ終わって、ちょっと昼寝なんてして、さてそろそろお茶の時間だね、って思ってた頃、葵ちゃんのお見舞いに行ってた孫が帰ってきた。
でも葵ちゃんに会ってさぞかしはしゃいで帰ってくるだろうと思ってたのに、なんだか様子がおかしいよ？
「どうしたんだい？」って問いただしたら、どうやら病院で羽野くんとその友達の茅野くんを見かけて、しかも葵ちゃんから「茅野くんが羽野くんの肩を抱いて帰っていったよ」って言われたらしくて…
葵、しっかりばらしてるぜ（笑）
「ばーちゃん、俺、羽野が好きなんだっっ！」
噂は本当だったのねっ
…いきなりそういうこと言われてもさ、どう答えろってんだい？
それでも気を取り直して、
「おまえ、葵ちゃんのことが好きなんじゃなかったのかい？」
ナイス突っ込み
あたしがそう聞くと、
「確かに、奈月は可愛い！ あんなに可愛いやつは聖陵中探してもそういない！ でも俺は、奈月より羽野の方が可愛いと思う！」
愛だねぇぇ
あーあ、テーブルがんがん叩いて力説するから、せっかく入れたお茶が半分も湯飲みから飛び出しちゃったよ。
「でも羽野くんは茅野くんなんだろう？ 食堂でもよく一緒にいるところ見かけるけどねぇ」
そうそう、いつも一緒なのよね、あの二人
こぼれたお茶を布巾で拭きとり、湯飲みにお茶をつぎ足してやったら、孫はそれを一気に飲み干し、だんっ、と、テーブルの上に勢いよく戻した。
…この湯飲み高いんだからさ、もっと大事に扱ってやっとくれよ。
九谷の年代物です（笑）
「羽野は茅野に騙されてるんだっ！ 羽野を茅野の魔の手から救ってやれるのは俺だっっ！」
やっぱ、そう見える？（笑）
あーあ、完全にイっちゃってるよ。
この思いこみが激しいところは誰に似たのかねえぇ。
少なくともあたしじゃないと思うんだけどね。
ん？
さて、どうしたもんかねぇ。
さ、さすがにばあちゃんとしては悩むか？孫がアブノに走ると・・。
孫は可愛いけど、羽野くんとうちの孫じゃ「美女と野獣」って感じで、どうも釣り合いがとれてない気がするしねぇ。
まだ羽野くんと茅野くんの方が絵になるからねぇ。
…そういうことか…。おばちゃんも『美しいものを見る目』に自信アリ？
まあとりあえず、いかに羽野くんと茅野くんの仲がよいか、噂を広めまくって、外堀から埋めてさっさと諦めさせた方がいいかもしれないねぇ。
もし羽野くんと茅野くんがそういう仲じゃなかったら、二人には気の毒だけどさ。
いいの、やっちゃって。
ま、瓢箪から駒、ってこともあるからね。
それがきっかけでもし本当にくっついちゃったとしても、それはそれで目の保養だし、あたしたちの楽しみも増えるってモンだよ。
こうして、聖陵学院ではあまたのカップルがねつ造されるのであった…。
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