プレゼントにリボンを掛けて
〜I Love まりちゃん・2001クリスマス企画〜
智&直、高校3年のクリスマス
後編
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「商品は…まりちゃんっ!!」 その瞬間、先輩の(かなり大きな)家が揺れたんじゃないかと思うほど、野郎どもの歓声があがった。 そしてそれを一喝したのが…。 「うるせぇっ!まりじゃねぇっ!」 半分寝ている直だ…。 あたりが一瞬水を打ったようになる…。 「ぷぷっ、かわい〜。まりのやつ、寝ぼけてやがる」 ホントだ…。寝ぼけてる…。 だってほら、もう寝てるし…。 「よし、この間にリボン結んじまえっ」 「おうっ」 え?ホントにリボンを? 先輩たちは、あっと言う間に直の細い首に可愛らしくリボンを結びつけてしまった…。 知らないからな…。怒るぞ、直…。 「ほれ、まり、起きろ」 相変わらず俺にもたれて眠っている直の頬を、先輩がパチパチと叩いた。 それだけでも俺は口をギュッと噛んで耐える。 誰かが直に触れるなんて、許せなくて…。 「んぁ?」 ぽやっと目を開けた直は、何度か目を擦って漸くここが先輩の家だったことを思いだしたようだ。 「あれ?俺、寝てました?」 「寝てたもなにも、爆睡だよ」 「うわぁ、すいません」 「いいっていいって。な、みんな」 お調子者の先輩の声に、一同がウンウンと頷く。 そりゃあそうだろう。おかげで直に難なくリボンをつけられたんだから。 「?」 直が首の違和感に気がついたようだ…。 「…って、これ、なんですか?先輩」 「やだなぁ、まり。聞いてなかったのかよ」 「はぁ?」 そこで事細かに説明され、漸く直はことの次第を飲み込んだようだ。 「で、お、俺が商品?」 「おうよ。何てったって、最下位だからな」 「俺が最下位?!」 直が目をまん丸にした。 そりゃあ、驚くだろうな。 普段の直は、こう言うことには結構強い方だから。 「え〜ん、俺、寝ぼけてたんだ〜。そうじゃなかったら、これくらいのこと〜」 直は俺にしがみついて泣き真似をし始めたんだけど、もちろんそんな嘘泣きに騙される先輩たちじゃない。 「ま、観念するんだな、まり」 その言葉にぶすくれる直を後目に、『早く発表しろよ』の声に急かされ、成績が下から順に、次々と発表された。 名前が読み上げられるたびに聞こえてくるのは、直をGETしそこねたヤツらのやかましい雄叫びだ。 参加人数は15人。 3位までの発表が終わると、前部長である蔵原先輩が俺に向かってニヤッと笑った。 かなり男前なこの先輩がこういう顔をすると、ちょっと高校生とは思えない迫力がある。 「思った通りだな。智」 その言葉に、俺は曖昧な笑みを返す。 学業成績も優秀で、先輩としても競技者としても信頼の厚い蔵原先輩は、俺も実際のところ尊敬はしている。 だけど、直のことに関しては別だ。 先輩はずっと前から直に目を付けている。それは、目を見ればわかることだ。 だって、俺と同じ視線で直をみているのだから。 だから俺は、こと直に関しては、先輩をこれでもかというくらい警戒して、牽制してきた。 それが、こんなゲームごときに破られるわけにはいかない…。 そんな俺の、心の内の葛藤を、恐らく先輩は知っているんだろう。 穏やかだけれど、挑戦的な口調で先輩は言った。 「いつもまりの側には智がいるからな、今日一日くらい譲ってもらってもいいだろう」……と。 その静かな迫力に、周りが息をのんだ。 俺は、今まで先輩にたてついたことなんか一度もない。 前田智雪は、静かで穏やかな『大人』で通ってるんだ。 けれど…。 「先輩、そう言うことは結果を見てから言って下さいね」 俺の返事は、先輩の口調より、数段挑戦的なものになった。 息をのんでいた連中は、今度はズズッと後ろへ下がった。 「と、も…」 直までが唖然として俺をみている。 「先輩、結果を教えてください」 静かに言った俺に、『あ…ああ…』と呻くような返事を返して、先輩は第2位を告げた。 「2位は…。蔵原だ」 ……やった…。 瞬間、蔵原先輩の視線が突き刺さったような気がしたけれど、俺は敢えて気付かない振りをした。 「はぁ〜」 俺の隣で、リボンを巻かれた直が気の抜けたため息を落とし、それが一気に場の冷えた雰囲気を和らげた。 「なんだ、まり。俺じゃなくてホッとしたってか?」 蔵原先輩が苦笑混じりに直の頭を撫でた。 「そ、そんなことないですっ」 慌てて首を振る直に、先輩はまだ笑いながら意地悪を言う。 「じゃあ、智でよかった…ってか?」 「え?え〜と…」 ……俺で、よかった…?直…。 「んっと、智なら無茶言わないし…」 …なんだ。そう言うことか…。 かなりがっくり来た俺に、ニヤッと一瞥をくれて蔵原先輩は、 「そうだな。俺だったら『まりのすべてをよこせ』なんて言うかも知れないけど、智なら言わないだろうしな」 なんて言いだした。 「お、俺のすべてってなんですかっ、それっっ!」 慌ててずり下がる直。 「ん?教えて欲しいか?まり」 「い、いりませんっ」 俺は未練がましく直につきまとってくる先輩をジッと見つめていった。 「先輩、勝ったのは俺ですから」 「……そうだったな」 そして、またしても冷え冷えモードに入りかかった場を、お調子者の先輩が明るい声で救った。 「ささっ、智。まりに最初の命令を」 命令…。 「と、智っ、無茶言うんじゃないぞっ。変なコトさせたら、絶交だからなっ」 …それは困る。大いに困る。 「こらぁ、まり〜。奴隷が王様を脅かしてどうすんだよぉ」 その言葉にあたりがドッと湧く。 俺は、結果を知ったとき、心底にホッとした。 でも、それは直を一日自由にする権利を俺自身が得たからではなく、その権利を誰にも渡さずにすんだと言うことから来てるんだと思う。 今、直を自由にできるからって、俺は直に何をして欲しいかわからない。 いや、違うな。わからないのではなく、言えないんだ。 俺の願いはただ一つ、『直、ずっと俺の傍にいて』…ただ、それだけだから。 何も言わない俺を、無自覚に潤んだ瞳で不安そうに見上げてくる直が可哀想で、俺は思わず直の首に手を伸ばした。 「智…?」 俺の指は、直のリボンをスルッと外した。 「あ〜!!」 あたりにブーイングの嵐が吹き荒れる。 「智…」 どうして?という表情でまた俺を見上げた直に、俺はできるだけ優しく微笑んでいった。 「今は何にもしなくていいから。ただ、これから部長になる俺を、直…副部長として支えてくれ」 先月の選挙で、俺は次期部長に、直は同じく副部長に決まったんだ。だから俺は…。 「ったく、点数稼ぐなぁ、智は」 蔵原先輩の、明るく茶化した声が響き、あたりはまた大笑いに包まれた。 その後、直は何度も何度も『俺、がんばるからな、智っ』って言って…。 そしてその夜、俺は夢を見た。 輝くツリーの横、大きなクマのぬいぐるみを抱いた直が、大きなソファーに座っていて…。 その姿は…赤いリボンを全身に纏った…裸の直…。 そして言うんだ。 『とも…きて』…なんて………。 朝起きたら、枕カバーが血まみれだったっけ……。 |
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「うわっ」 ぼんやりと1年前を思いだしていた俺は、直の声で引き戻された。 直が箱から引きずり出したのは大きなクリスマスツリー。 「すっごい〜。綺麗だ〜。な、智、これ電気つくのかな?」 「さぁ…。アメリカ製じゃなかったらいけるんじゃないか?」 「電圧とかの関係?」 「うん。まあ、おやじはともかく、優秀な秘書さんたちがついてるからその辺ぬかりはないと思うけど」 そう言って、150cmくらいありそうなツリーを一人掛けのソファーの横へ持っていき、プラグをコンセントに差し込んでみた。 …瞬間。 「うわ〜、めちゃめちゃ綺麗だ〜」 大喜びの直。そんな直をみられるのが俺は嬉しい。 直はソファーに腰掛けてツリーを眺めている。 「あれ?直、もう一つ箱があるけど」 「あ、そうだった。取って」 俺は綺麗に包装されたその箱を取って直に渡す。 箱の大きさの割にはかなり軽かったんだけど…。 「うわっ、クマだ」 そりゃあ軽いはずだ。 中からでてきたのはぬいぐるみの大きなクマだったんだ。 でも、これって…。 直がクマを膝に乗せてこっちを見た。 「ほら、智。可愛い顔してるだろ、こいつ」 そうだ…『こいつ』は去年見たあの怪しい夢に出てきたクマとまったく同じじゃないか…。 「直…」 |
☆.。.:*・゜ |
智がなんだか艶っぽい声で俺を呼んだ。 「な、なんだよ」 優しい笑みを浮かべて、智がやってくる。 「直、去年のクリスマスパーティー覚えてる?」 クリスマスパーティー…って…、あ、あれか。先輩んちでやった、部活の…。 「うん、覚えてるけど…」 「あの時俺、直のリボン外してあげたよね」 う…。ヤなこと思い出させやがって…。 俺が曖昧に頷くと、智はまるでだめ押しするかのように言った。 「で、何もしなくていいからねっていったよね」 た、確かにそうだけど…。 「う、うん…」 「あの分、今からしてもらおっと」 「え?」 ちょ、ちょっと待てよっ! 「お、俺、ちゃんと1年間副部長としてお前に協力してきたぞっ」 俺がそう喚くと、智は『おやっ』って顔をした。 「そっか。そうだったよな」 「そうそう」 必死で頷く俺。 「ありがと、直」 「いえ、どういたしまして」 思わず返事をしてしまう俺。 「さ、シャワーだっ」 おいっ、まてっ、どうしてそうなるっっ!! 「シャワー浴びたら、体中にリボンを着せてあげるからね」 げ…。 そんな俺たちの足元には、クマが入っていた箱に掛けられていた、立派な深紅のリボンが…。 |
END |
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