「I Love まりちゃん」外伝
魅惑の33階
〜淳くんの長い夜〜
by たがちゃんさま
150万Hitsのお祝いにいただきました〜O(≧∇≦)O
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僕は、室長が好き……なんだ。 上司としてだけでなく、一人の男性として…。 気が付いてみれば、なんてシンプルで純粋な気持ちなんだろう。 自覚した途端に失恋決定というのはさすがに虚しくて、僕の心を地中深く落ち込ませてしまうけど。 それでも僕は室長のそばいたかった。たとえそれが仕事上だけだとしても、あの人がほんの少しでも綺麗な笑顔を向けてくれるならそれで幸せなんだ。 気持ちを打ち明けてそばにいられなくなることを思えば、部下として接してもらえるだけでも嬉しい。 逃げなのかもしれないけど、そう思い込まなければいられないくらい僕の思いは室長に向かっていたんだ。 浮上しない気分を抱えて家に帰った僕は、明日の仕事に備えて手早くシャワーを浴びるとベッドに入った。 いつもは常夜灯を点けておくのに今夜はそんな気分じゃなくて、すべての明かりを落としてしまう。 真っ暗になった部屋は、僕の知らない世界みたいで少しも眠りは訪れない。 なにも考えないでいいように真っ暗にしたはずなのに、余計に神経が過敏になっているみたい。 自分で思っている以上に、失恋の痛手は大きいのかも…。 そばにいられるだけで…部下でいられるだけで幸せだと思ったはずなのに、僕の気持ちは落ち込むばかり。 自覚したばかりの恋の行方はあまりにも悲観的すぎて、切なすぎる。 狭いベッドの上でごろごろと寝返りをうって、そのたびに零れるため息は回数を増すごとに大きくなっていく。 明日の仕事に備えて眠らないといけないのに、眠りに誘う羊たちはどこかに遊びに行ったまま戻って来ないようだ。 真っ暗な天井に端整な室長の顔が浮かぶたび、僕は切ない思いに胸を締め付けられる。 ため息を吐くたびに幸せが逃げていくっていうけれど、僕の場合はため息を吐く前から失恋しているんだ。これ以上幸せの逃げようなんてないよね。 走馬灯のように室長との思い出が僕の脳裏を駆け廻る。 入社式の日、会長に案内された僕にからかうような笑顔を向けてきた室長、仕事に打ち込むクールで厳しい横顔は、僕自身にいつかああなりたいと思わせるくらいに格好良かった。 そしてちょっとした瞬間に見せる照れたような笑み、その中でも今夜見せてくれた綺麗な笑顔を僕は忘れることができないだろう。 思い出すだけで早鐘を打つ胸の鼓動に、僕の胸は切なく疼く。 いつのまにこんなに好きになっていたんだろう? 自覚した今はもう、この思いを消すことなんてできそうにない。 決して言葉にできない思いを抱えて、室長のそばであの人の手助けをしたいと願うだけ。 せめて『MAJEC』というあの人のホームグラウンド―――僕のホームグウランドと言えないところが虚しいけれど―――で、ほんの少しでも認められる存在になりたい。 出会った頃のあの人はあまりに完璧すぎて、遠い存在で…僕には嫌味にしか映らなかったのに。 見返してやるんだとむきになって一時間早く出社してみたりもしたけど、結局それもあの人のすごさを目の当たりにする結果になったっけ。 今思えば、嫌みや皮肉やお小言もすべて僕のことを思ってくれていたってことで、あの人なりのエールだったのだと思えるようになったけど。 あの頃の僕はあこがれの『MAJEC』に入社できたことだけで精一杯で、室長の気持ちを思いやる余裕もなかった。 室長に認められたくて今日までただひたすら走って来た僕に、それを望むこと自体無理な相談なんだけど。 負けん気だけで立ち向ってきたあの頃が懐かしい。 もしかするともうあの頃から惹かれていた? だからあなたに認められたかったのかな? ひとりの人間として、男として…そして好きになってもらいたかった? 身のほど知らずの恋―――その前に男同士だから恋愛の対象になれるはずもないけれど―――それでも僕の心から室長の笑顔は消えてくれない。 ほんの一瞬見せてくれた綺麗な笑顔、あれを見てしまった今はもう忘れることなんてできそうにないよ。 それなのに、明日になったら僕はまた室長と春奈さんのツーショットを見ないといけない。 たった一瞬で僕を幸せにしてくれた室長の綺麗な笑顔が、明日は僕を苦しめる。 なによりあの笑顔が春奈さんに向けられると思うだけで、僕の胸が張り裂けそうに痛いんだ。 恋って…人を好きになるって、とてもすばらしいことのはずなのに、僕の心はなぜこんなに切ないんだろう? 室長を思うだけで泣きたくなるこの気持ちって…。 変だ…こんなの変だよ。こんな気持ちは初めてで、どうしたらいいのか分からないよ。 高校の時の失恋に似ているけど、それとも微妙に違う切なさが僕の胸をいっぱいにして…。 僕…いつからこんなに女々しくなったのかな? 部屋を真っ暗にしたから心まで暗くなったんだろうか? 明日も仕事なのに、室長に認められる仕事をしないといけないのに…このままじゃ眠れないまま朝を迎えてしまいそうだ。 眠らなくちゃ…あの人に微笑を向けてもらえるように、安心して仕事を任せてもらえるように。 せめてあの人の負担を少しでも減らしてあげられるような僕になりたい。 僕は室長のそばにずっといたいから…せめて仕事上の部下としてだけでもそばに置いてほしいから。 ☆ .。.:*・゜ なんで? これってなに? どういうことなの? うぅん、これは現実。春姫ちゃんから室長が春奈さんを好きだと聞いた日からずっと僕の心を苛み続けてきた未来なんだ。 いつかこんな日が来ると知っていたはずなのに、こうして僕以外の人に綺麗な笑顔を向ける室長を見ていると泣きたくなってくる。 教会の鐘が厳かに室長と春奈さんの結婚式の始まりを知らせる。 二人を祝福するように鳴り響く鐘も、陽光の輝きさえも二人の幸せな未来を暗示してるようだ。 今日は室長と春奈さんの結婚式、僕の目の前を真っ白なウェディングドレスを纏った春奈さんが歩いて行く。 一歩一歩、神さまの前で一生の愛を誓うために進んで行く春奈さんを、僕は張り裂けそうな胸の痛みに堪えてじっと見つめている。 春奈さんが向かう先には、真っ白なタキシードに身を包んだ室長が待っていて…。いつもより五割増に魅力的な姿は、白馬の王子さまを思わせてますます僕の心は切なくなった。 あまりに素敵すぎるその姿に、僕は場所柄もわきまえず涙を流していた。胸の痛みを堪えきれず、あの人への思いを捨て切れずに。 今日まで思いのすべてを胸の奥に隠して、室長のいい部下で在り続けてきたのに…これでは今までの努力が水の泡だ。 少しでも室長の負担が楽になるように、必死に仕事に打ち込んできたのに。 それはがむしゃらと言ってもいいくらい、わき目も振らず仕事の鬼と化していたと思う。 だってそうでもしないと、僕の瞳が室長の姿を追いかけてしまう。僕の心が室長の微笑を求めてしまうから。 なによりも室長の心をほしがる僕の思いを止められなくなるから。 こうして目の前で永遠の愛を誓う二人の姿を見せ付けられても、室長へと向かう僕の思いは消えない。それどころか、最後の最後になって室長への思いが溢れてしまっていたんだ。 そして僕は女々しいと思いながら、幸せそうな二人の姿を、涙を流しながら見つめ続けていた。 視界が歪んですべての色と音が消えてしまう瞬間まで。 気が付けば僕は、控え室のソファーの上に寝かされていた。 あまりに気持ちを抑えすぎたために、脳貧血を起こしたらしい。気分が悪いとは思っていたけど、まさか倒れるまでとは思わなかった。 辺りに人の気配は感じないから、まだ式は続いているんだろう。 「僕って…室長の結婚式で倒れるなんて…すごいドジ」 自嘲する声は涙声になっている。 だれもいない控え室、僕は甘い誘惑に負けてしまいそうだ。だれも聞いていないのを言い訳にして、思いのすべてを言葉にしようと思った。 大きくなりすぎたあの人への思いを胸の中に抱え込むには、あまりに重過ぎるから。 せめて今だけあなたへの思いを言葉にして…そして封印する。 もう二度と言葉にしたりしないから…今だけ言葉にすることを許してほしい。 「室長…あなたが好きでした。あなただけを愛していました。ごめんなさい、好きになってしまって…でも、言わせて…今だけでいいから思いを言葉にさせてください。あなただけが好きで…し…た」 これが最初で最後、そう思ったらただでさえ止まらなかった涙が洪水を起こしたみたいに溢れ出していた。 それはまるで白昼夢の中にいるような気持ちだったのかもしれない。 「今だけなのか? 私は明日も明後日も命が尽きるその瞬間まで言ってもらいたいけど…」 だれだよ、傷心の僕の邪魔をするのは…そりゃあ僕だって明日も明後日も、それこそ毎日でもこの思いを室長に伝えたいよ。 「放っといてください。僕はひとりになりた…い…ん…」 えっ? 今のってだれが言ったんだ? 確か今ここにいるのは僕ひとりだけのはずで…。 僕は恐る恐る声のした方に、涙と鼻水でグシャグシャになった顔を向けた。でも洪水を起こした僕の瞳は湖を作っているから、霞んでその人の顔がはっきり見えない。 「ひどい顔だな。でも、そんな長岡が好きだよ」 この声は…室長? でも、室長は今春奈さんと挙式の最中のはずで…。 まして、僕のことを好きだと言ってくれるはずもない。 好きと…えっ! す…き? だれが? だれを? え――――――っ!!! ドスンッ!! 「痛っ! 痛いな〜…もう〜〜〜。あれ? ここって…もしかして今の全部夢な・の…か?」 なんでかそこは僕の部屋で、さっきまでいた控え室のソファーの上―――落ちたんだからこの表現はちょっと違うけど―――じゃなかった。 そこは僕がよく見知った僕自身の部屋で、フローリングにだらしなく転がっている。ついでに常夜灯が点いていないから当然ながら真っ暗。 そこに至って、やっと僕は冷静な判断力を取り戻した。 そうか…自分の気持ちをはっきり自覚したから、あんな夢を見てしまったんだろうな。 現実とリンクしすぎていてリアルすぎるよ、とても夢だとは思えない。 僕はそう遠くない未来にやってくるだろう現実を思い、また切なくなってしまった。そしてもうひとつの現実にも気付いてしまったんだ。 それは室長へと向かう思いを消すことができないという僕の恋心、夢の中の僕はその思いに呑み込まれて意識を手放してしまったくらいだから。 捨て切れないなら、この思いを抱えたまま生きていくしかないわけで…。開き直るしかないのかな? 「あ〜〜〜あ、夢とはいえせっかく室長が好きだと言ってくれたのに…もったいない。でもさっきの夢って、いい夢だったのかな? それとも悪い夢?」 それは二つの未来を暗示するもの、僕はまだ夢を見ていてもいいってことなのかな? こうして僕は東の空が白みかけるまで、延々夢の続きを思いため息を吐いていた。 当然翌日の仕事はきついものになったけど、室長に認められたい一心の僕は必死にその日の仕事に取りくんだ。 少しでも室長のそばにいられるように…今は仕事に没頭することに決めたから。 |
END |
たがちゃん!
素敵なお話ありがとうございました〜v
室長と春奈さんの結婚式を夢に見てしまうなんて、
淳くんの切ない気持ちがヒシヒシと伝わってきます。
ああっ、もうっ、淳くん可愛いっ!
がんばれ、淳くん! ウェディングドレスを着るのは君だ!(違)
…実はタキシード姿の室長にも激しく萌え( ̄ー ̄)
☆ .。.:*・゜