蜜月の朝






「おはよう、淳」

 カーテンを引く音と一緒に、和彦さんの声が僕を夢から呼び戻す。

 ううん。夢なんか見なかった。

 そんな余裕もないくらい、僕はしっかりと眠りの底に沈んでいたんだ。

 すごく幸せな気分を抱いて、体中を和彦さんの温もりに包まれて。


「…おはよう、ございます…」

 でも、どんな顔で挨拶していいかわかんなくて、僕は目だけを毛布から覗かせて和彦さんを見る。

 けれど、和彦さんはそんな僕を茶化すことなく、優しく頭を撫でてくれて、そして今度は心配そうに訊くんだ。


「身体は大丈夫か?昨夜は、その…歯止めが利かなくなってしまってな…。すまん」

 でも、顔中から火を噴けそうなそんな言葉も、僕はなんだかちょっと余裕で受け止められる。

 だって、和彦さんもちょっと顔が赤くなってたりするから…。

 そんな和彦さんに、僕が『平気…です』って答えると、やっと笑ってくれた。


「さ、腹減ったろう?たくさん作ってあるからな、しっかり食べてくれよ」

 そう言って、和彦さんはベッドから僕を抱き上げた。

「か、和彦さんっ」

「ん?どうした?」

「お、降ろして下さいっ」

「どうして?」

「どうして…って」

 恥ずかしいし、それに…。

「重い、でしょ」

 そう、あの日――僕たちの誕生日――の秘書室でのあの言葉。

『こら、暴れるな。楽々と抱いてるわけじゃないんだからな、落ちるぞ』って言われたこと、覚えてるから。


 でも、それを言ったら和彦さんは、相変わらず僕を抱き上げたままで声を上げて笑ったんだ。

 そして…。

「あの時はな、確かに楽々とは抱けなかったんだ。でも今は違うぞ。あれで運動不足を自覚したからな。今度淳を抱き上げるときのためにと思って、鍛え直したから大丈夫」

 はい〜?

「と言うわけだから、これからはベッドへ行くときもベッドから出るときも、こうして運んでやれるから安心しろ」

 その言葉に、今度こそ余裕なく顔中から火を噴いた僕を『楽々と』抱き上げたまま、和彦さんはご機嫌で僕をリビングへと運んでいった。


お・し・ま・い



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