「a queer fish」のさんぽさまから、
30万のお祝いにいただきました!
「a queer fish」 VS 「桃の国」
看板オヤジ対決は新たな局面へ!?



うきうき☆35歳

「桃の国」vs「a queer fish」華麗なる看板オヤジ対決 ACT. 3 


その日逢坂克哉(某社不良事業主)は、朝からかなり不機嫌だった。というのが出掛けに、妻の津谷子にいきなりこういわれたのだ。
「お誕生日おめでとうございます、あなた。たしか、・・・35歳におなりでしたわね」
歳を取ったということをいきなり揶揄されて、逢坂は返す言葉に詰まってしまった。すると津谷子はにっこり笑ってこう続ける。
「わたくしにはよくわかりませけれど。でも、四捨五入すると40になってしまう歳になるって、一体どんな気持ちなのかしら」
津谷子は現在29歳である。
逢坂はかなりむっとしたがしかし、いい返しているひまがなかったのでそのまま家を出た。今朝はアサイチで重要なアポイントが入っているのだ。

約束先に向かう車内で、逢坂の胸の中は荒れていた。
津谷子の奴め、・・・この前のことを根に持っているな。
先だって行われたどこぞのなんとか祝賀パーティとやらに、夫婦揃って出席した折りのことを思い出す。そのとき逢坂は、津谷子が身に纏っていたドレスにクレームをつけたのだ。
それはかなり背中の開いた、シンプルな真珠色のドレスだった。津谷子の、どちらかといえば日本的な美貌にとてもよく似合っていたのだけれど。それでも逢坂は僅かに不愉快だった。良人のいる身で、その背中の開き具合はないぞと思ったのだ。それでもストレートにそう言葉にすることがどうしても出来なくて、逢坂は妻についこう言ってしまったのだ。
「そのドレス、お前には少し若すぎる」
そのときなにも言い返さなかった津谷子が、実はそのことをかなり根に持っていたのだということを今になって思い知らされる逢坂である。
ちぇ。
オンナなんてのは、どうしてこう根に持つ生き物なんだ?そんなに気に障ったっていうのなら、その時に言わえばいいんだよ。こんなに時間が経ってから復讐するなんて、なんという執念深さ。ある意味感心するが、ぞっとしないね全く。それでなくても歳をとるなんてこと、いい加減うんざりしてるっていうのに。

逢坂は横でなにやらノートパソコンのキーを忙しそうに叩いている秘書の洲本に声をかける。
「洲本、お前今日がなんの日か知ってるか」
洲本はパソコンの画面から目を上げると、極めて元気にこう返して来た。
「はい!今日はこの後○○○社と事業提携の件で最終調整です。そしてその後は一旦社に戻りまして、重役会議。午後からは雑誌インタビューが1件、それが終わると移動して○○○○社の―」
「もういい」
すげなくそう応えると、洲本は不思議そうな顔をする。やれやれ、こいつ仕事はまあまあ出来るんだが、いかんせん面白みにかける。
「今日はお前が終日私のお守係なのか」
そう尋ねると、洲本ははいと頷く。
「室長は多田達と竹下専務の韓国行に同行中ですし、課長は重役会議の準備で課の他の面子と共に社で待機です。そして有藤さんは、今日は珍しくお休みなんですよ」
「・・・南は休んでいるのか」
「ええ、風邪だそうです」
ふうん。秘書課の社員で逢坂の甥でもある南の厳し気な表情を思い浮かべながら、逢坂の胸にむくむくと悪い計画が湧き上がっている。
ふ、小うるさい南が終日いないなんて、これはついているじゃないか。天も私に味方してくれているということだ。
・・・遊んじゃおうっと。折角の誕生日だし。
それなりな企業の事業主、逢坂克哉。本日35歳。悪戯に歳を重ねているだけの、ちんぴらオヤジである。


「社長!一体どちらに向かっているのですかこの車は!早く社に戻らないと、重役会議を始められないじゃありませんか!皆今朝の調整の結果を今や遅しと待って、」
「・・・うるさい。お前黙らないと、ここで車から降りてもらうぞ」
逢坂がそういうと、興奮していた洲本も思わず口を噤んだ。横目で観察すると、憮然としている。なんかこいつ南に似てきたな。おもしろくない気分になる逢坂である。
アポ先で、逢坂は社用車をそのまま運転手ごと捨てて来たのだ。そして道端でタクシーを拾ってこっそり乗り込もうとしていたところを、洲本に見つかってしまった。仕方がないので、追いかけて来た洲本を無理矢理タクシーに押しこんで、自分も乗り込んだ逢坂である。
「さっきの調整の件に関しては、お前から社に報告入れとけばいい。それで充分だ」
そう逢坂がうそぶくと、洲本は益々憮然となりながらも、パソコンを取り出してキーを打ち出した。メールでも入れるのだろう。
「午後の予定は全キャンセルだ。それも伝えておけ」
そう言い足した逢坂に、洲本がぎょっとした顔を向けてくる。
「・・・社長」
「あ、もうすぐ着くし。急げよ洲本」
そらっとぼけてそう促すと、実直な洲本はすぐにパソコンに戻ってぱちぱちを再開する。うんうん、こういう素直なところは失わないで欲しいぞ洲本。南なんか見習うなよ。胸の中でそんなことを願う逢坂である。

「あ、・・・ここは」
「ふふ」
「・・・社長、有藤さんには、」
「無論ナイショだ。お前言うなよ洲本」
「・・・いえません、恐すぎて」
そういいながらぶるっと身を震わす洲本に車で待っておくように言い残して、逢坂はひとり意気揚揚とその店のドアを開いた。テーラー川島。こじんまりとした紳士服専門店。
誕生日だしな。ここの美貌の店主に服を作って貰うなんてのは、とびきりの自分へのプレゼントだ。・・・そんで、ついでにちょこっと遊びに誘ったりしたりなんかしても、まあ、バチは当たるまい。南は寝込んでんだし。逢坂はそう腹計算して、口の端に笑みを湛える。
この店の若きオーナー、川島隆士は南の恋人なのだ。しかしそれでもついちょっかいを出したくなるのは、店主が非常に魅力的なのと、逢坂に節操というものがないせいである。

「いらっしゃいませ」
ドアを開くと同時に、柔らかい声が逢坂達を迎える。・・・いいな、この声さえもうるわしい。逢坂は中に足を踏み入れると、店の奥からこちらに美々しい笑顔を向けている白百合のごとき美貌の店主に軽く手を上げてみせた。店主は別の客をあしらっている最中である。
「失敬。勝手に待たせてもらうよ」
そう声をかけて、店の隅に置かれている応接セットに向おうとしたその時。
「逢坂君じゃないか」
朗々と響くバリトンの美声にそう呼び止められる。
・・・・・
・・・・・
振り返りたくない。逢坂はそのまま歩き出そうとしてしかし、背中にバリトンの哄笑を浴びせかけられて立ち止まる。「おいおい、つれないな逢坂君。君と私の仲なのに知らん振りなはいだろう」
仲、・・・ってなんだ。私はお前と仲良しなった覚えはないぞ。
それにどうしてここに、この私の数少ないお気に入り場所、魂のリラクゼーションスポット、オトコの快楽ショップに、よりにもよってこいつがいるんだっ・・・!!
逢坂は胸の中で悪態をつきながら、声の方へ振り返る。そしてそこに、逢坂が普段毛虫より嫌っている男が、店主のすぐ傍に立ってこちらに勝ち誇ったような笑顔を向けているのをやぶ睨みに見つめる。
今をときめく情報通信産業の旗頭、世界的企業MAJECの会長、前田春之氏。カリスマ経営主であり、その動向は常に世界市場が注目しているという日本経済界の大立役者である。

「・・・なんて日だ」
逢坂は思わずそう呟いてしまった。折角の誕生日だというのに家内にバカにされるわ、よりにもよってこんなところでこんな奴にでくわすわ。
世界の前田氏を捕まえて、いきなりこんな奴よばわりである。
すると店主が、場の微妙な雰囲気を感じ取ったのだろう。落ちついた物腰で取り成すように言う。
「ああ、逢坂様ありがとうございます。こちらの前田様に店のことをご紹介下さったそうで」
「あぁ?」
逢坂は絶句した。私??私はこいつにこの店を紹介した覚えはないぞ。というか死んでも紹介なんかするわけないじゃないかこんな毒々オヤジにこの店を・・・。
二の句の継げない逢坂に、前田氏は悠然と微笑んで見せる。
「この前君がここのご主人を紹介してくれてすぐにね、次の日にはここに馳せ参じたというわけだよ。確かに君が自慢するだけあって、ふふ、素敵な店だ。私はもう既に2着スーツを仕立ててもらったが、実にいいよ。今日も新しいのを一着またお願いするところだ」
自慢。
そこまで言われて、逢坂はやっと合点がいった。そして自分の犯した大きな過失に思わず頭を抱える。
ああっ、そういえばこの前こいつと会ったとき、例の戦いに勝とうと私は切り札を、・・・川島君のメイド写真をこいつに差し出して見せたんだ。それでその場は勝利を修めたまでは良かったんだが、その時私はつい調子に乗って、川島君とこの店の名前を・・・口走っていなかったか?そんでスーツをみせびらかしたり・・・、ああああっ一生の不覚っ!
がっくりと肩を落す逢坂である。
そんな逢坂の様子を面白そうに眺めながら、前田氏が言葉を続ける。
「ふふ、情報は強い武器だよ。ビジネスにおいても、実生活においてもね。手に入れた情報を、どれだけ素早く且つ有効に使いこなすか。そこがその人間の資質にかかっているわけだ」
なにが資質だこのハイエナオヤジ。逢坂は唇を噛み締めながら胸のなかで精一杯毒づく。たったあんだけの話で次の日にここを割り出すなんて、なんちゅう強欲な飢えたオヤジだこいつ。しかも今日、いきなり3着目っ・・!

そんな逢坂の内心の罵倒などどこ吹く風といった風情で、前田氏はにこやかな笑顔のままいきなり店主の手をとって見せる。
「・・あ」
「いや、君はまったく素晴らしいひとだよ川島君。君のスーツは私のように道楽の限りを尽くした者が最後に辿りつくべき品だ。真に物の価値がわかるオトナが身に纏うに相応しい逸品だな。その辺の若造のスーツなんかを作るというにはあまりに惜しい腕だ」
これ見よがしな前田氏の台詞に逢坂は拳を握り締める。
くっそう、言いたい放題しやがってっ、このドグサレ親父っ、変態中年、いやもうすぐ老年っ、とにかくとしよりっ!
憤懣のあまり、悪態がどんどん幼稚になっていく逢坂である、

「恐れ入ります」
柔らかい声でそう応えると、店主はゆっくりとした動きで自分の手を前田氏から取り戻した。そして脇の棚から帳面を取り出すと、中の書き込みに目を遣りながら確認するように言う。
「それではお申しつけ通りこの生地を取り寄せます。業者の方に在庫があればすぐに連絡させていただきますが、もし在庫がない場合は、」
「急がないよ」
口調は穏やかに、しかし素早く店主の肩に手を置きながら前田氏がそう応える。
げ、なんちゅう手の早さ。逢坂が呆れ果てるのとは裏腹に、しかし店主はこういったことに慣れているのか、前田氏に振り返ると口元に笑みを浮かべる。そしてそっと前田氏の手に自分の手を添えてみせた。
僅かに動揺する前田氏に、店主は微笑をくずさぬままに口を開く。
「僕のような職人風情に、オイタはダメですよ前田様」
からかうような、それでいて暖かい口調だ。

「ほう」
手をどけながら、前田氏が感心したように声を上げた。
「実にいい!実にいいよ君、気に入ったよ川島君!これからずっと君のことは贔屓にさせてもらうから」
そしておもむろに懐からなにやら取り出すと、店主に向けて広げてみせる。
「私には息子が2人いてね、今度はこの子たちのスーツも是非こちらでお願いしたいな」
げ。逢坂は思わず後じさった。あ、あれは例の・・・
前田氏秘蔵アイテム、ポケットアルバムである。
「長男はまあ、私によく似て二枚目なのはいわずもがなというやつなんだが。しかし次男の方がね、これがもう実に可愛いんだよこの子なんだがね、目に入れても痛くないとは、まさにこの子のためにある言葉で」
出たなヘンタイ親父のヘンタイ的息子自慢しかも何故か次男限定。身構える逢坂とは裏腹に、アルバムを見せられた店主はにこにこと微笑みながら相槌を打っている。
「ああ、とても可愛い。この浴衣姿なんか、・・・いいなすごく。メイドも、ふふ、いいですね」
「そうだろうともそうだろうとも。川島君、君、こちらの方もなかなかいけるようだね。いいな君、益々気に入ったよ」
高らかなバリトンの笑い声が店に響き渡る中、逢坂は体中の力が抜けていくのを感じないではいられなかった。全くなんて日だ。親父の毒に当たってしまったじゃないか。
しかし、川島君。・・・食えない男だね君も。微笑を絶やさない店主を横目で見ながら、逢坂はそっと溜息をつく。やれやれ、私はもしや一番ノーマルじゃないのかこの中では。

「そういえば、・・・逢坂さま、たしか」
店主がふと思い立ったようにそういうと、レジへと向かった。そして顧客名簿を繰って、ああやっぱりと声を上げる。
「お誕生日おめでとうございます」
さすがに如才のない店主、顧客の個人データもしっかり把握している。言葉と共に極上の笑顔を惜しげもなく贈られて、少しだけ気分が上向きになった逢坂である。
しかし。
「おお、逢坂君は今日が誕生日か。いやそれは目出度い。おめでとう」
ああ、いやだこいつにおめでとうと言われてしまった。最悪だ私の誕生日。厄年でもないのに、何故。
前田氏にお祝いの言葉を向けられて、我が身を呪う逢坂である。
そしてそんなことには全くお構いなしに、前田氏は上機嫌に逢坂に歩み寄ると、懐から先ほどとは別のアルバムを取り出しながら朗らかにこう言い放った。
「では私のお宝の中から、どれでも気に入ったものをひとつプレゼントさせていただこうかな。いや、ほんの気持ちだから、遠慮は無用だよ。ああでも、次男のはダメ、こっちのからだ」
どうやら、次男とほかの美少年写真は別々のアルバムに修めているらしい。
・・・頭が痛くなってきた。
あまりのことに返事もできないでいる逢坂に、無邪気な様子で前田氏がこうつけ足す。
「あ、君のお宝と交換でもいいぞ。その場合は3枚まで有効だ」


逢坂克哉、本日35歳。四捨五入すると40歳だが、いろんな意味でまだまだひよっこなのである。



ご存じ、「a queer fish」のさんぽさまから30万Hitsのお祝いにいただきました!!
ふふっ、さんぽちゃんちの『バイキン社長』と我が家の『変態会長』、第三戦の舞台はなんとあの!『テーラー川島』ですっ!
ああ・・・あの『たかちゃん』にまでご出演いただけるなんてっ!
幸せですぅぅぅ。

さんぽちゃん、ほんっとにありがとうございましたv
え?逢坂社長の再リベンジ?
じゃあ、今度は『次男』つれて伺いますわ(爆)


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