第8章「地上の楽園」




1. 漣基(れんき)


 いつにない寝付きの良さで、翔凛が眠った。

 今日、三歳の生誕祭を迎えた翔凛は、昼間の儀式の疲れからか、寝台に行く前からすでに鈴瑠の腕の中でうとうととしていたのだ。

 いつもなら、毎夜鈴瑠が聞かせる話に目を輝かせ、なかなか眠ってはくれないのだが。


 健やかな寝息を確かめてから、翔凛の肩までそっと布をかけ、鈴瑠は立ち上がる。

 向かうのは奥の宮殿の中庭。
 それは奥の宮殿の住人、つまり『本宮』竜翔と『若宮』翔凛のためのまったくの私的な庭である。
 そこに、鈴瑠を待つ人物がいる。




 翔凛の祝いの日に、亡くなった芙蓉の弟、天子の第二皇子・漣基がやって来ると知らされたのは、ほんの数日前のことだった。

 漣基は、都を離れることができない天子と、兄である第一皇子の代わりに、精力的に国内を視察してまわる活動的な皇子である。

 折良く近隣まで来ていることから、甥である翔凛の生誕祭に出席すると使いをだしてきたのだ。

 漣基が到着したのは一昨日のこと。
 その日の夜から、漣基はこうして夜の中庭に鈴瑠を呼びだしている。





 ここしばらく、竜翔は本宮として、鈴瑠は翔凛の養育係として、生誕祭の準備に追われていた。

 生誕祭に向け、自然と竜翔と鈴瑠が交わす言葉数も多くなっていったのだが、しかし、それは以前にも増して竜翔の心を締め付けていく結果になった。

 見せない笑顔、あわせない瞳、他人行儀な言葉使い、そして、絶対に口にはしてくれない自分の名前。

 距離を置いていればわからないことも、なまじ交わす言葉が多くなった分だけ、見てはいけないものを見、感じてはいけないものを感じてしまう。

 鈴瑠は相変わらず竜翔の事を『本宮さま』と呼ぶ。

 その落ち着いた声と落ち着いた物腰は、成年式のまま時を止めてしまったかのようなその外見と酷く反する。

 そして、それはあくまでも竜翔の前で、だけなのだ。

 竜翔は知っていた。
 籠雲の前での鈴瑠は、昔の鈴瑠となんら変わっていないことを。

 可愛らしい微笑みを見せ、自分のことを『僕』と言う、あの日のままの鈴瑠であることを。

 そして竜翔だけではなく、鈴瑠もまた、本心を悟られまいとするあまりに、極度の緊張を自身に強いていた。

 そんなときに現れた漣基の、太陽のような明るさとおおらかな態度に、鈴瑠は知らず安らぎを求めていた。






「翔凛は眠ったのか」

 中庭にはすでに漣基の姿があった。

 今宵は満月が明るく庭を照らしているから、燭台の数も多くはない。

 石造りのベンチに腰を下ろしていた漣基は、鈴瑠の姿を認めると、にこやかな笑顔を向けてやって来た。

 芙蓉の優しさとは正反対の精悍な顔つきに、逞しい身体。

 しかし、それらを押しつけがましく見せないのは、漣基自身が内部から滲ませている優しさの故かもしれない。それこそが、漣基と芙蓉が似ている点なのだろうか。


「はい。今日はぐっすりと。昼間のお疲れがでたのでしょう」

 鈴瑠もまた、いつもの緊張から解放されて少し疲れ気味の笑顔を向けた。

「すまなかったな、疲れているのに今夜も呼び出して」

 そう言うと、漣基はフワッと鈴瑠の肩を抱き、ベンチへと誘った。

「いいえ、漣基様のお話は楽しいですから…」

 それは本当のことだった。
 天子の代理として国中を巡回している漣基は、豊富な知識を持ち、またそれらを巧みな話術で聞かせてくれるのだ。

 この国は広い。
 しかし、拓けているところが多いわけではない。

 まして高度に発展している地域は、都と創雲郷の他には数が知れている。

 漣基はそれらの地域の他に、普通なら目の届かない場所にまで足を運んでいた。

「今夜は鈴瑠の話を聞かせてくれないか」

 抱いた肩を離さずに漣基がいう。

「私の話…でございますか?」
「そうだ。鈴瑠のことが知りたい」

 不思議そうな顔を向けた鈴瑠に、漣基はいたずらっ子のような笑みを見せた。

 竜翔の3つ年下の従弟、漣基は大人びた容姿を持つのに、時にはこんな顔も見せるのだと、鈴瑠はおもしろそうにその表情を見つめた。

「私は…生まれてすぐに花山寺の門前に捨てられていました。そして、座主の籠雲様に育てられ、十五の歳に本宮様への終世誓約をいたしました…」

 鈴瑠はそこで言葉を切った。

「それで?」

 漣基は先を促したのだが、鈴瑠は小さく首を振った。

「残念ながら、それだけです。これが私のすべてです」

 言いながら空を仰ぐ。
 月の明かりが強すぎて、星が見えない。

 夜毎姿を見せる、吉兆の星も、災いの星も、今夜は月明かりの背後に、気配を埋めている。

「三年の間、行方がわからなかったと聞いた…」

 ポツッと言った漣基の言葉も、鈴瑠には予想が出来ていた。

「あれは…」
「いや、いい。詳しいことは泊双から聞いているから。…その三年間に、姉上が嫁いでいたという訳か…」

 漣基は姉想いの皇子だったと聞いていた。

「芙蓉様とは、一度だけお会いできました。もっと、お側にいたかったです…」

 知らず、言葉が涙で震えてしまった。

 無理に命を引き延ばし、苦しめてしまった芙蓉の三年間を思うと、いつも涙が止まらなくなる。

「鈴瑠…」

 漣基は、肩を震わせる鈴瑠をきつく抱きしめた。

「姉上を恨んではいないのだな…」

 思いもかけない言葉に、鈴瑠は弾かれたように顔をあげた。

 その表情に、漣基は安堵したように微笑み、何かを言おうとする鈴瑠の唇を、自分の唇で塞いでしまった。

 一瞬身体を固くする鈴瑠。

 しかし、すぐに抗い始めたのを、漣基はさらに強く拘束した。

 そして口づけを深くしていく。

 やがて鈴瑠が抵抗をやめると、漣基もまた、ゆっくりと鈴瑠の身体を離した。

「竜翔は、お前に執心だったと聞いていた」

 静かに言う。

「あの日がなかったら、姉上がここへ嫁ぐことはなかったのだろう…」

 暖かい親指で、鈴瑠の涙をそっと拭う。

「都を離れる日、姉上は私に言ったんだ。『大切な約束があるの』ってな。それは幸せそうだった。私はてっきり、元気になって竜翔の元へ嫁げることが嬉しいのだと思っていたのだが、姉上の最後の手紙を読んだとき、姉上はもっと大切な何かを抱えていたんじゃないかと思った」

「芙蓉様の最後の手紙…」

 頬を大きな手でくるまれたまま、鈴瑠は呟いた。

「姉上は誰かが帰ってくるのを待っていた。私は…それを確かめにここへ来た。もちろん、竜翔とは何年も会っていなかったし、翔凛にも会いたかった。 けれど、それよりも私は、姉上が誰を待っていたのか知りたかったんだ」

 漣基は、今度はそっと鈴瑠を抱きしめた。 

「お前を見たとき確信した。姉上はお前を待っていたんだ…」

 ジッと見つめられた瞳は、逸らすことが出来ないほど真剣に絡んでいた。

「姉上とお前の間に何があったのか、教えてはくれないか」

 鈴瑠は絡め取られたままの視線をふと和らげた。

「芙蓉様は、翔凛様の養育係に私をお選びになりました。私が三年の時を経て戻ってきたのは、本当に単なる偶然です」

「鈴瑠っ」

 思わず声を荒げた漣基に、鈴瑠は悲しそうに瞳を伏せて見せた。

「信じてはいただけないのでしょうか…」

 睫を震わせるその姿は、漣基の胸を突いた。

「…すまない…。許してくれ…」

 大きな体で鈴瑠の小さな身体を抱き込む。
 柔らかく、優しく。

「私は、翔凛様のためにここにおります。戻って来られたのも、きっと天空様のお導きです」

 そう、自分は翔凛を守り育てるために帰ってきたのだ。

 竜翔を愛するためではない。

 そう何度も繰り返す。自身に言い聞かせるように。


「鈴瑠…」

 漣基は募る愛しさを押さえきれずに、いつまでも鈴瑠を抱きしめていた。
 

 そして、月明かりに照らされる二人の姿を、ジッと見つめる暗い瞳があった。










 深夜、鈴瑠が部屋へ戻ると、翔凛が勢いよく掛布を飛ばしていた。

 その様子に微笑んで、鈴瑠はずれてしまった布を丁寧にかけ直し、再び静かに寝室を出る。

 向かう先は、もっとも奥の祭壇、鈴瑠が地上人としての命を終えたところ。

 鈴瑠は毎夜、自身の就寝前に必ず祈りを捧げに祭壇へ行く。

 そしてそれは今夜も同じように…。




 祭壇の間へ入った鈴瑠の耳に、何かが聞こえてきた。

 人の声、押し殺すように、誰かを呼んでいる。
 声はテラスの方から聞こえてくる。

 声の主は…。その声が呼ぶ名は…。

「鈴瑠…」

 想いのすべてを詰め込んだその呟きに、鈴瑠はきつく唇を噛みしめた。

 そうしないと、自分もまた、その人の名を呼んでしまうから。


『竜翔』…と。


 瞼が熱くなる。しかし、ここで涙を流すわけにはいかない。

 口にしてはいけない名をグッと飲み込み、踵を返そうとした鈴瑠に、声がかかった。 

「りんりゅ…か?」

 竜翔の問いかけに、鈴瑠は静かに深く息を整え、出来るだけ静かに応える。

「お邪魔をいたしまして申し訳ありません」

 竜翔が祈りを捧げていたのではないくらい、みればわかることなのに、それでも鈴瑠はそういい放った。  


 沈黙が居座る。

 その間ずっと、鈴瑠は背後に突き刺さるような眼差しを感じていた。

 しかし、振り向くわけにはいかない。

 今、竜翔がどのような表情で自分をみているのか、嫌と言うほどわかっているから。





 やがて、竜翔が大きく息を吐いた。

 芙蓉を愛した三年間を後悔するつもりはない。そしてその結果、翔凛という命に恵まれたことにも、心から感謝している。

 しかし、竜翔の中に住む人間はただ一人。

 その人は今、目の前で、背を向け全身で自分を拒絶している。

 もう二度と、あの愛らしい顔で自分に微笑みかけてくれる日は来ないのだ。

 そう確信したとき、竜翔の心を余すところなく絶望が覆う。


『永遠に失ったと思っていた頃に比べると、今こうして目の前に鈴瑠がいるだけでも…』と思っていた。

 しかし、それが大きな勘違いだったと竜翔は思い至る。

 自分は、鈴瑠の心を、もう永遠に失ってしまったのだ。

 やはり自分の愛する鈴瑠は四年前に死んでしまったのだ。


 そして、殺してしまったのは…自分なのだ。




「鈴瑠……四年前、お前がここから落ちたとき、私も後を追えばよかった…」

 思いもかけない竜翔の言葉に、鈴瑠の肩が強ばる。

「そうすれば…お前一人を辛い目にあわせずにすんだのもを…」

 鈴瑠の胸が、不吉な予感に警鐘を鳴らす。

 今の竜翔の状態は普通ではない。

 恐る恐る振り返る鈴瑠の目に、表情をなくした竜翔が映った。


「この郷も、翔凛も、お前がいれば大丈夫であろう…」

 そういった竜翔の身体は、すでにテラスの手すりを越え、そして……。


 竜翔の心は、四年前を求めて……飛んだ。



「竜翔っ!!」



 落ちて行く身体、遠ざかる意識の中で聞いた、鈴瑠の声……自分の『名』を呼ぶ声に、竜翔は幸せそうに微笑んだ。



 鈴瑠…生涯共にあろう…。


 誓いの言葉は、呟きとなって、谷底深く、落ちて、いく……。






2.永遠の闇


 確かに飛んだ。

 この身体は落ちていったはず。

 ぼんやりとした意識の隙間に入ってくるのは誰かの声。


『はい…祭壇の間のテラスで…』
『倒れておられたと…』


 しかし、その声はまた遠ざかる。

 落ちていく自分の身体を誰かが抱いてくれた。
 弛緩しきった身体を、力一杯抱き留めてくれた誰か…。

 細いが、暖かい腕だった。

 そして耳元に囁かれたのは…『竜翔…』という言葉。

 あれは…鈴瑠の…声?







 体中に虚脱感を覚えた。

 鈴瑠は知らず、自身の身体をさすっている。

 自分一人飛ぶのは雑作もないことだが、自分より一回り以上大きな竜翔を抱き留めるのは、かなりきつかった。 

 落下をくい止めるのに精一杯で、谷底から宮殿まで飛ぶのにはかなり時間がかかった。

 深夜でよかったと思う。
 こんなところを誰かに見られていたら…。



「鈴瑠…」

 竜翔の様子を見ていた籠雲が、鈴瑠の元へやって来た。

「何があった? 泊双には『テラスで倒れていた』と言ったそうだが」

 穏やかな表情だが、その視線は鋭い。
 鈴瑠は、やはり籠雲は騙せないのだと諦める。


「…テラスから…身を投げられたのです…」

 出来るだけ静かに言ったが、それでも籠雲は大きな衝撃を受けた。

「身を投げたとは…。ご自分の意志でということか」

 鈴瑠は籠雲の目を見て頷いた。

「追いつめたのは、僕です…」
「鈴瑠…」

 切れんばかりに唇を噛みしめるが、赤いものが滲んでくる気配はない。
 

「帰って来なければ…よかった…」

 絞り出すように呻いた鈴瑠はそのまま床に膝をつき、崩れた。

 籠雲は無言でその身体を支え、抱き起こしてやる。

「僕さえ帰ってこなければ、竜翔があんなに苦しむことはなかったのに…」

 椅子に座らされながらも、鈴瑠は荒く息を継ぎながら訴える。

「鈴瑠、お前はなぜそんなにも竜翔様を避けるのだ。私には理由がわからない」

 それは、泊双にも漣基にもわからないこと。

 今まで何度訊ねられようが、一度も答える事はなかった。

「それは…」

 竜翔が目の前で身を投げたという事実が、鈴瑠の心をも崖っぷちに立たせていた。

「僕たちがまだ、想い合っているから…です」
「鈴瑠…っ」

 籠雲はらしくもなく、鈴瑠の両肩を掴んで揺すった。

「それではわからない。私たちにも、竜翔様にもっ」

 沈黙の後、鈴瑠が言葉を吐いた。 


「僕は…あの日、死んでしまった…そのままなのです…」
「な…何を…」

 驚愕する籠雲に鈴瑠はゆっくりと話を始めた。


「僕は確かにあの日、地上での命を終わりました。今ある身体は見せかけだけのもの。僕は天の子ですから、この命は天にあります。だから、僕はもう死なないし、歳も取らない」

 鈴瑠は籠雲にそっとしがみついた。
 自分の身体を支えるようにして。


「僕は、地に住む人とは愛を結べないのです…」


 聞き取れないほど小さく漏れた告白に、籠雲はその身体をしっかりと抱き留めることで応えた。

「竜翔様の想いには応えられない…と言うことなのか?」

 鈴瑠は静かに頷いた。

「地に住むものは『有』、天に住むものは『無』。…僕と愛を結ぶと言うことは、その人の『死』を意味します。それも…『永遠の死』を…」

「『永遠の死』…?」

 不安げに眉を寄せる籠雲に、鈴瑠は『そうです』といい、次第に落ち着きを取り戻し始めてきた。


「人は皆、死ぬと輪廻へ帰っていきます」
「それは…生まれ変わると言うことか?」

 天空信仰の中で、『輪廻』と言うものはあまり大きな意味を持ってはいない。
「生前」に浄く生きることを本分とし、「死後」は安らかな世界が待つだけとしているためだ。


「どのような人も、必ず輪廻へ帰り、いずれまた生を受けます。けれど、僕たち『無』と交わると、その人は輪廻へ戻れず、永遠に闇の中を彷徨うことになります」

 鈴瑠は顔をあげてはっきりと言った。

「これが…『永遠の死』です」

 重く長い沈黙が辺りを支配した。
 籠雲も口を開こうとはしない。
 

「愛しているから…そんな目にあわせたくない……」


 それがすべてだった。 


 やがて、籠雲が鈴瑠の頭を抱き、あやすように髪を梳きはじめる。

「想いを交わして愛を結ぶと…竜翔様は二度と生まれ変われないということなのだな…」

 その言葉を肯定するように、鈴瑠が悲しい瞳で籠雲を見上げる。

「お前は…鈴瑠、お前はどうなるのだ…」

 籠雲は親として、鈴瑠の身を案じている。
 鈴瑠にはどのような災いが降りかかるのか…。

「僕には…自身のことはわからないのです」
「わからない…?」

 天の子に、『わからない』などと言うことがあるのだろうか。

「僕はただ、自身に課せられた使命を果たすだけなのです。その後、どうなるのか…。永遠に生きるのか、それとも永遠に死するのか…。それすらも僕にはわからないのです」

「そんな…」

 それではあまりにも残酷ではないか、と、籠雲は身体を固くして息を詰めた。

 しかし、目の前の鈴瑠は、諦めたように目を伏せている。

「では…鈴瑠、お前の使命とは?」

 再び訊ねた籠雲に、今度こそ鈴瑠は首を振った。

「いずれ、お話しする日が来ると思いますが…今は、申し上げられません」

 一片の迷いもない口調。
 籠雲はこの事については、これ以上問うても無駄と悟る。

 しかし、もう一つ聞いておかねばならないことがある

「竜翔様は…何とする…」

 身を投げてまで鈴瑠を追った竜翔を、このままにしてはおけないことくらい、鈴瑠にもわかっていはいた…が…。






「私と共に生きてはくれまいか」

 それは真摯な眼差しだった。

 鈴瑠はふわりと微笑んで、握られた手を優しく外した。

「漣基さまのお気持ちはとても嬉しいのですが、私はこの郷を…本宮を離れるわけには参りません」

 静かに、しかし毅然と言う。

「それは、本宮に終世誓約を立てたからか? それならば都の父上から勅命を出してもらう。勅命の上に立つものはない。だから、鈴瑠は何も心配しなくてよい」

 必死に言い募る、らしくない様子の漣基に、知らず笑いが漏れてしまう。

「鈴瑠、笑うとは何事だ。私は真剣なのだぞ」

 その言葉に、鈴瑠は僅かばかり表情を引き締めて答える。

「申し訳ありません。ただ、漣基さまがあまり子供のようにだだをこねられので…」

 それでも言葉の最後に笑いが混じってしまう。

「そのようなことを言うのなら…わかった。力ずくで連れていく。それでよいな」

 グッと力の入った漣基の指が、鈴瑠の細い腕に食い込んだ。

 その違和感に、鈴瑠は思わず顔をしかめた。

「あ…すまない…。つい力を入れてしまった。大事ないか? 痛むか?」

 その行動と裏腹な言葉が、鈴瑠の心を柔らかくしていく。

「漣基さま…。私はどうしてもここを離れられないのです」

 出来るだけ優しく言うが、漣基はやはり、気に入らないと言った表情を露わにする。

「私には…想う方があります…」
「鈴瑠…」

 思いもよらない鈴瑠の言葉に、漣基は動きを止めて、ジッとその顔を見つめる。

 まさか、鈴瑠がそれを口にするとは思わなかったのだ。

「想いは叶わなくとも、お側にいたいのです」

 こんな事を言うつもりはなかった。しかし、これは、紛れもない自分の本心だ。

 きっと、漣基の真摯な想いが、自分の心に張った氷を溶かしたのだ。

 鈴瑠は、久しぶりに感じる、穏やかで暖かい気持ちに身を委ねていた。


「お前の思いが叶わない相手など、いるとは思えない。そんな見え透いた言い逃れをするほど私のことが嫌いか」

 漣基自身、その言葉が『言い逃れ』でないことはわかっているのだ。
 しかし、鈴瑠は何度訊ねられても、竜翔への想いを否定し続けたのだ。

「漣基様が、私に思いをかけて下さるのは大変光栄なことです。でも、私はこの想いを消し去ることが出来ないのです…」

「それは…その想いは…竜翔に向けられているのだな」

 わかっていたことだった。

 いつも、不自然なほど頑なに竜翔を拒む鈴瑠。

 しかし、竜翔が倒れたときに見せたあの動揺。
 あの時一度きりの様子で十分だった。

 鈴瑠は竜翔を愛している。

 しかし、その想いは抹殺されようとしている。
 ならば、自分が連れていこうと。

 埋められなかった心の隙間を埋めてやりたいと心から願った。



「そうです…」



 鈴瑠が初めて自分の想いを認めた。
 微笑む姿が愛らしい。

「ならば、何故あのように竜翔を拒む。竜翔がお前を想っていることぐらいわかっているであろう?」

 そう問われることは、十分すぎるほどわかっていた…が、籠雲の時のように、全てを話すわけにはいかないのだ。

 自分は天の子。
 その事実を知る人は、今は、籠雲だけでよい。

「この想いは…許されないのです…」

 ようやくそれだけ言う。

「まさか、お前は姉上に遠慮して…」

 ああ。やはり漣基はそう思うのか…と、鈴瑠は一つ嘆息をする。

 この誤解だけは解いておきたい。

 亡き芙蓉に、そんな重荷まで背負わせたくはないから。

「これは…私自身の問題です」
「しかしっ」
「芙蓉様はっ…芙蓉様はそのようにお心の狭い方では…ありません」

 …確かに鈴瑠の言う通りだ…と漣基は思う。

 鈴瑠の帰りを待ち、我が子・翔凛を託した、姉・芙蓉。

 鈴瑠は否定するが、きっと姉と鈴瑠はどこかで繋がっているのだろう。

 ならば、この件をこれ以上姉のせいにするのは無理だ。

「鈴瑠…お前は何があっても言う気はないのだな…」

 漣基が少し、怒りを含んで言う。

 しかし、そのようなことに怯むくらいなら、鈴瑠も最初から本心など告げていない。

「僕は竜翔を愛しています。けれど…僕の想いは、本当に叶わないのです」

 鈴瑠が、鈴瑠自身の言葉で告げた、本当の想い。

 それこそが真実だった…。










 日暮れの創雲郷。
 一日でもっとも香の煙が立ち上る時間。

 漣基は出立を明日に控え、ようやく執務に戻った竜翔と会話を交わしていた。

 そして、従兄弟同士としての他愛もない会話のあと、いきなり切り出した。



「竜翔、私は鈴瑠に『一緒に行こう』と言った」

 竜翔の瞳が僅かに開かれる。
 しかし、その色は深く、暗い。

「……悪い冗談は…やめてくれ…。鈴瑠は本宮に終世誓約を立てた身だ。何処へ行くことも叶わない」

 今はそれに縋るしかない。
 自分の想いだけでは、もう、鈴瑠をつなぎ止めておくことは叶わないのだから。

「終世誓約くらい、父上の勅命で覆してやるさ」
「漣基…っ」

 意外な反撃に、今度こそ竜翔の瞳が大きく開かれる。

 確かに天子の勅命の方が上位なのだが、それでも終世誓約はそのように軽んじられてよいものではない。
 その事は、漣基とてわかっているはずなのに…。


「私は我慢がならなかったんだ。本宮の中で、酷く緊張し続けている鈴瑠をみていることがな。 私の前ではあんなに素直で可愛らしい子だというのに…。 お前なんかのために、こんなところにいる必要はないんだと思った。 あの子を苦しめているのはお前だと確信していたからな」

 事実を突かれて、竜翔は言葉を失った。

 唇を噛みしめる竜翔を、漣基は眼の端でチラッと認めると、深く息を吐いた。

「確かにお前だったよ。鈴瑠を追いつめているのは…」

 最後通告とも言える言葉を聞き、竜翔は存外に落ち着いた声を出した。

「鈴瑠は、なんと…?」

「ほう…。鈴瑠の意志を尊重してやるつもりか?」

「鈴瑠がお前と行きたいと言うのならば、誓約は破棄してもいい…。叔父上の勅命を待つまでもない…」


 先に裏切ったのは自分だ。

 自分はもっと大切な誓約を違えたのだ。

 『生涯共にあろう』という、天子の勅命を持っても覆せない、大切な大切な、魂の誓約を。

 今、鈴瑠が幸せになろうとするのをどうして自分が止められと言うのか。

 竜翔の様子を見守っていた漣基が、もう一度、今度は心底忌々しそうに吐息をついた。

「鈴瑠は…報われないのだな…」

 その言葉に竜翔が眉を寄せた。

「どういう意味だ」

「鈴瑠がお前を想うほど、お前は鈴瑠の事を想ってはいないわけだ」

 わけのわからない漣基の言葉に、竜翔が苛立ちを露わにする。

「だから、それはどういう意味だと言ってるんだっ。私は鈴瑠を愛しているっ」

 竜翔が漣基の胸ぐらを掴みあげる。

 その形相に、漣基は場違いな笑みを漏らした。
 そして、そのままの体勢で、漣基が静かに告げた。


「鈴瑠はこう言ったよ…。『僕は竜翔を愛しています』ってな」





『僕は竜翔を愛しています』





 意識を研ぎ澄ませると、その言葉は鈴瑠の声で聞こえてくる。

 自分のことを屈託なく、『僕』と言っていたあの日までの鈴瑠。

「鈴瑠が…そう言った…のか」

 今聞いた言葉が幻ではないようにと、竜翔は必死で意識をつなぎ止める。

「…ああ。…悔しかったよ。 私がここにいた十日の間、一度も見たことのない穏やかで可愛らしい顔だった。あれはきっと、四年前のあの日まで、お前が毎日見ていた本当の鈴瑠の顔なんだろう…」 

 しかし、今の漣基の言葉はほとんど竜翔の耳には入っていなかった。

 ただ、渦巻くのは鈴瑠の言葉のみ。

 今しも駆け出しそうな竜翔を、漣基が引き留める。

「何処へ行く」
「鈴瑠に…」
「やめておくんだな」

 漣基は冷たく言い放つ。

「今のお前の状態では、鈴瑠をまた傷つけてしまう」
「どういうことだっ」

 竜翔はなおも掴まれた腕を振り払おうとする。

「鈴瑠がすべてを諦めているのは…何故だ?」

 竜翔を落ち着かせようと、できるだけ穏やかに言ってみる。

「すべてを諦めている…?」
「自分の想いは本当に叶わないのだと言った」

 違う。叶わないと思っていたのは自分の方だ。


「竜翔…一度話し合ってみろ…。言っておくが、静かに…だ。怯えさせるような行動をとったら、私が許さない」






3.その生涯を共に


 夕べの祈りに捧げられる香が、まだほんのりと残る奥の祭壇に、鈴瑠は静かに佇んでいた。

 あの日、二人の運命を分けた部屋。

 恐らく竜翔は来る。
 漣基に告げた言葉はすでに伝わっているはずだから。


 まさか竜翔自身が命を捨て去るような行動に出るとは思わなかった。

 それほどまでに追いつめてしまった自分。

 いや、それ以上に、自分が思うよりも、もっともっと深かった竜翔の愛情に、今は素直に喜びを感じられる。

 この断崖から、躊躇いもなく身を躍らせた竜翔の、あれが紛れもない本心なのだから、自分ももう、嘘をつくことは出来ないと、鈴瑠は自分に言い聞かせていた。




 鈴瑠はその歩をテラスに進める。

 地上人としての自分が命を落とした場所。
 そして、竜翔が自らの命を絶とうとした場所。

 鈴瑠はその手すりに足をかけ、軽く蹴ってフワッと浮き上がる。

 そしてその身は僅かに空中に留まったあと、静かに再び手すりに降り立つ。

 断崖の向こうにそびえ立つ霊峰に大きく手を広げ、鈴瑠は深く息を吸い込んだ。





「鈴瑠…」

 背後から静かに声がかかった。
 鈴瑠が広げていた手をそっと下ろす。


「こちらへ降りてきなさい」

 竜翔の押し殺した声が流れてくる。

 鈴瑠は細い手すりの上を、するりと向き直った。
 向こうは断崖。

 瞬間、竜翔が手を伸べた。
 冷静を装ってはいるが、鼓動が上がっているのがわかる。



「鈴瑠、もう一度言う。危ないから降りてきなさい」

 鈴瑠が飛び降りでもしたら、迷うことなくあとを追うつもりでいた。

 しかし、鈴瑠は素直にその声に従った。



『トンッ』



 軽い音をさせて手すりから降り立つ。 
 竜翔の表情には、明らかな安堵が広がる。



「鈴瑠…私は自分を偽るのはやめた」

 穏やかに、だが決然と竜翔が言った。

「私はお前を愛している。この気持ちは終世変わらない」

 言いながら、一歩ずつ鈴瑠に近づく。

「力ずくでも、お前を自分の物にしたい」

 熱烈な告白に、鈴瑠は表情を崩さずに、心中だけで小さく笑った。

 力ずくなどでなくても、もうこの心はすべて竜翔の物なのに…と。

 今となってはもう、心しか捧げられる物はないが、あの成年式の日、終世誓約と共にこの身もすでに捧げていたのだ。

 ただ、その時はどうなっていたのだろうと思う。
 あの夜、もし賊が侵入せずに、穏やかな夜を迎えていたとしたら…。

 きっと竜翔が自分を抱こうとしたときには、けたたましいほどに鈴が鳴ったに違いない。

 あの鈴の音は、『浄い生き物』である鈴瑠を守るためではなく、地上人を守るために鳴るのだから。

 そう…………、なにも知らない地上人を、永遠の闇に落としてしまわないために。




「もしも、鈴瑠がまだ私を拒むというのなら、私には本宮として命令を下すこともできるのだが…」

 竜翔は漣基から伝えられた鈴瑠の思いを信じようとしていた。

 だから強い物言いで鈴瑠をつなぎ止める。

 もう、有無など言わさない。

 叶わない思いなどないのだと、その身にはっきりと知らせてやるのだと思った。

 一歩ずつ、静かにだが力強くその足を進めてくる竜翔に、鈴瑠はほんの少し微笑み、そして右手でその歩みを制した。

「そのまま…」

 竜翔の歩みが止まる。

「そのままで…私の話を聞いて下さい」

 竜翔は僅かに眉根をよせたが、言われたとおり、そのまま、その場に立ち尽くす。


「…竜翔様がなぜ助かったのか…おわかりですか?」

 鈴瑠はその視線を断崖に向けた。

 その言葉に、竜翔はあらためてあの時のことが夢などではなかったことを思い知る。

 崩壊した心を抱えて、鈴瑠の面影だけを追って飛んだ。

 その身は確かに宙を舞ったはずなのに、気がついたときには自らの寝台の上であった。

「やはり…鈴瑠…お前が」

 あの時聞いた声は、確かに鈴瑠の優しい声だった。

「落ちていく竜翔様を受け止めて、ここまで戻りました」

 鈴瑠の言葉を受けて、竜翔の表情が『理解不能』を示す。

 鈴瑠は微笑んだ。
 今度こそ、誰にでもわかるように優しく、柔らかく。




「これが…私です」

 そう言いざま、振り向き、軽い動作であっと言う間に手すりを越えた。

「鈴瑠っ」

 叫んだ竜翔の瞳に映ったのは…。

「り…ん、りゅ…」

 テラスの少し向こう、足元はぱっくりと口を開ける目もくらむような断崖。

 霊峰を背に、緋色の衣を風になびかせて、……鈴瑠は浮かんでいた。

 驚愕に目を見開く竜翔。
 しかし、鈴瑠は…微笑みを絶やしてはいなかった。

 その微笑みに惹かれるように、竜翔の足がぎこちなく動く。鈴瑠に向かって、一歩ずつ。

 それを見て、鈴瑠は懐から自身の守り刀を取りだした。
 そして、何の躊躇いもなく自分の喉を突く。

 それは竜翔に叫ぶ間も与えないほど素早い行動であった。

 深々と喉に突き刺さる刀。
 だが、痛みはなく、あるのは僅かな違和感だけ。

 息をのんだ竜翔の身体が硬直し、言葉を発そうとしたまま、その口は沈黙した。

 目の前の鈴瑠は、血の一滴も流さずに、相変わらず微笑んでいるのだから。



「これが…私、なのです」
「どういう…こと、だ」



 しかし竜翔は、躊躇うことなくその両手を鈴瑠に向けて伸ばしていた。

 こちらへおいで…と言わんばかりに。







 四年前、確かに鈴瑠はこの場所で、大量の血を流し、この深い断崖へ落ちていった。

 あの時の鈴瑠と、今目の前で浮かんでみせる鈴瑠のいったいどこが違うというのか。

 鈴瑠は自らに刺さる刀を雑作もなく引き抜き、そして静かに告げた。



 自分が地に生きる者ではではないと言うことを。
 そして、地上人との愛は結べないと言うことを。



 告げるその喉には、傷一つない。








 しばし、沈黙の帳が降りる。

 香の気配も消えた祭壇の間。

 断崖から吹き上げ、また霊峰から吹き下ろす風が、浮かんだままである鈴瑠の衣の裾を揺らす。











「…それで」

 先に口を開いたのは、竜翔であった。

「鈴瑠の心はどこにあるというのだ」

 静かに問う。

「私の…心…」

 小さく呟く鈴瑠。

 もう、ここまで来たのだ。
 偽ることは…何もない!





「僕の心は、竜翔の元に!」 





 すべて身に纏った偽りを脱ぎ落とし、鈴瑠は鈴瑠の声で叫んだ。



「ならば…私と心を結んでくれ」

「竜翔…」

「私の鈴瑠…」


 竜翔が大きく手を広げた。



「戻って来いっ!」



「りゅう…」



 鈴瑠の視界が溢れ出るもので揺らいだ。

 流す血は無くとも、流す涙がある限り、この想いを捧げ続けよう。

 愛しい人に…。


「竜翔っ」

 鈴瑠は空を蹴り、竜翔の胸に飛び込んだ。





 この前、この胸に抱きしめられたのはいつだっただろう。

 竜翔の胸はこんなにも逞しかっただろうか。

 鈴瑠は細い腕を精一杯に回して竜翔にしがみつく。



 この前、この身体を抱きしめたのはいつだっただろう。

 鈴瑠はあの時のまま何一つ変わっていない。

 竜翔は細く小さな鈴瑠の身体を、思い切り抱きしめた。




 近づく吐息。

 竜翔のひんやりとした唇が、鈴瑠の頬に触れ、そしてそのまま、柔らかく紅い唇に落ちる。

 離れてきた四年間を埋めるような激しい口づけではなく、お互いが耐えた四年間を労るような深く優しい口づけ。



 長い口づけのあと、竜翔は鈴瑠の耳に囁いた。

「もしも私が、お前の身体を力ずくで奪おうとしたら、なんとする?」

「そんなことをすれば、竜翔は永遠の闇に落ちる…」

「それでもかまわないと言ったら?」

 竜翔を永遠の闇に落としてしまうくらいならば…。

「僕の手で…輪廻へ戻してあげる」

 そう言い、鈴瑠は先刻自分の喉を突いた刀を、竜翔の喉元に突きつけた。

「僕に…そんなことをさせないで…」 

 偽り無い決意を瞳に浮かべる鈴瑠から、竜翔は目を逸らさずに答える。

「愛しているから…鈴瑠を悲しませるようなことは、しないと誓おう…」

 そしてまた、抱きしめる。

「生涯、共にあろう」

 何者にも覆せない誓約を、もう一度口にする。

「はい」

 今、この瞬間を、魂に刻みつけて。






 明け方の、創雲郷の大門。

 下界と信仰地を隔てるこの大きな門は、鈴瑠が襲われたあの日からずっと、厳しい警戒が敷かれたままだ。

 そして今、ここを去る天子の第二皇子のために、門が大きく開かれる。



「漣基様は、星を読むことが出来ますか?」

 鈴瑠の問いに、漣基は頷いた。
 皇子でありながら、都を離れ旅の日々。
 自然と星を読むことも身に付いている。

「あの星が…」

 鈴瑠の指さす先には、あの『吉兆の星』と『災いの星』。

「『吉兆の星』だな…」

 そう言った漣基に、今度は鈴瑠が頷いた。

 しかし、やはり『災いの星』は見えていないようだ。
 今はまだ『吉兆の星』の方が明るいから…。

「あの星が光を失い始めたら、進路を東にとって下さい。大きな街を避けて、出来るだけ早く」

「何か…起こるのか…?」

 不審そうに漣基が問う。

「私を…信じて下さい」

 微笑む鈴瑠。その肩を愛おしそうに抱く竜翔。
 二人の表情に暗いものはない。

「わかった信じよう」

 明るい笑顔でそう返す。

「竜翔、鈴瑠を泣かせるな」
「当たり前だ」

 歳の近い従兄弟同士はそう言って、手を握りあった。

「元気で」
「お前もな」

 笑顔を残し、漣基は数少ない供を連れ、創雲郷を後にした。

 鈴瑠と竜翔は、強く心優しい漣基の後ろ姿を静かに見送る。

 鈴瑠にはわかる。
 恐らくこれが、現世で見る最後の姿。 



「戻ろうか…鈴瑠。翔凛が待っている」
「はい、竜翔」


 お互いの温もりを傍に感じて、二人は手を繋ぎ、微笑みあって宮殿へ戻っていった。
 



  天に在りし者も地に住む者も、この瞬間とき地上ここが楽園であればこそ。