天空神話〜番外過去編
「秘め事」のさらに秘め事

〜悠風くんのお仕置き?〜

お子さまは回れ右、なのですv




「ちょ…待ってっ、悠風っ」

 高熱の後、いくら体力を消耗しているとはいえ全身でもがこうとする翔凛を、悠風はその細い身体のどこにそれほどの力があるのか、易々と押さえつけ、それどころか引き抜いた衣の袖で翔凛の腕を、その頭の上でさっさと括ってしまった。

「な…なにを…っ」

 こんなことをされたことなど一度もない。
 いつだって悠風は、包み込むように優しく翔凛を抱くのだから。


「なにを…? 決まってるじゃないか、翔凛が素直に話してくれないからこういうことになるんだ」

「だからっ、なんにもないってばっ」

「じゃあ、なぜ熱病など罹った?」

「う」

 言葉に詰まる翔凛に、悠風はいらだちも露わに噛みつくような口づけをぶつけた。

「……っ」

 その呼吸ごと吸い取られてしまいそうで、翔凛は必死で唇を閉じようとするのだが、悠風は差し込んだ舌で好き勝手に、まだ熱い翔凛の口腔内を暴れ回る。

 頭上に上げさせられた両の手は括られたまま悠風に片手で押さえつけられ、体重をかけて全身を押さえ込まれてしまうと、身長差のある翔凛にはもはやどうすることもできない。

 すでに晒されてしまった、まだ熱を持つ素肌は、外気に触れたためか、それともこれから起ころうとしていることに対する怯えのためか、小さく震え始めた。


「どうして震える? 寒い? …それとも…」

 その瞳に、いつになく凶暴な光を見て、翔凛はさらに身を竦ませる。

「…いっ、いいからっ、手、離せっ」

 それでもまだ強気に出るところが翔凛らしいと言えばそうなのだが…。


「正直に言えば離してあげる」

「だから、別になんにもないって言ってるだろっ」

 だが強気も時には裏目に出る。
 悠風はスッと目を眇めた。

「…ま、正直に話せばもっと酷い目に遭うかも知れないけどね…」

「…ゆ……あっ…」

 そこら中をまさぐっていた手がいきなり翔凛の中心をきつく握り込んだ。
 むろん、病に弱った体の反応は鈍くて…。


「…私に何をされても感じない…ってことか?」

「…ば…かっ、何言って…」

「いいよ、例えお前がその気にならなくたって、私には関係ない」


 悠風の手の動きは、言葉の終わりと同時に『愛撫』ではなくなった。
 それは、痛みすら感じさせる、ただ、追いつめるためだけの行為。

 容赦なく辿る掌と唇は、まだ熱が残っている身体――敏感なのか鈍いのか――に、とてもあやふやな感覚を容赦なく植え付ける。



「いた…っ。やめ…」

「やめてって? 冗談じゃないよ、翔凛。 これは罰なんだから」

「…なっ、…罰…って……あ……くっ」

「二度と私に隠し事など出来ないようにしてあげるよ」


 もとより悠風は翔凛の不実を疑ってなどいない。
 生涯のただ一人と“共にあること”を誓ったあの言葉。
 その大切さを一番知っているのは翔凛なのだから。
 
 だが『隠し立て』は許さない。
 生涯共にあるのだから、お互いの身に『秘め事』などもっていたくない。

 

「別に隠してなんか…」

「…かまわないさ、言いたくなければ…その口をつぐんだままで…」


 そういいざま、悠風は翔凛の片足をいきなり自身の肩に担ぎ上げた。

「…やっ…なにを…っ」

「…黙って、翔凛。 何も言いたくないんだろ?」


 そうして悠風は、何の準備もないままに、翔凛に体重をかけた。
 もちろん、翔凛の奥深くに入り込むために。







 翔凛は言われたとおり口をつぐんだ。
 
 いきなり開かされた身体は悲鳴をあげた。
 だが病途中の弱った体の為、余計な力が入らなかったのはむしろ翔凛にとって幸いだったかも知れない。

 そして、夜毎愛されている身体は、その心よりも素直に喜びを受け入れてしまう。

 けれど、いつもなら程なく漏れる細く艶めいた声も、今は必死でかみ殺されて。

 だが、その口元が頑なであればるほど、悠風の動きは容赦がなくなっていく。

 押さえきれず、僅かに漏れる息の他には、二人分の体重で寝台が軋む音しかしない、翔凛の居室。




 無茶な行為で熱がまたぶり返したのかも知れない。
 押さえつけている身体だけでなく、悠風を受け入れている部分も溶かされてしまいそうに熱い。


 素直に話してくれれば、すぐにでも優しくしてあげるのに…。

 その想いが届いたのか、翔凛がついに言葉を零した。


「ゆ…ふ、…て、はなして…」
 

 最初から押さえつけられたままになっていた両の手首が痛むのか、小さな声での訴えだった。

「だめ」

 それは聞きたい言葉じゃない…と、即座に却下する悠風に、翔凛は濡れた瞳を向けた。
 
 それは、辛いとも悲しいとも違う、涙。
 

「はなして…ゆふに…つかまりたい…から」

 そう言われた瞬間、悠風の心の蔵がドクンと大きな音をたてた。

「…翔凛っ」

 すぐに手を離して抱きしめると、翔凛も弱々しくしがみついてきた。

「…ゆふ…しんじて…」

 体中が更に熱くなっていく。

「ごめん、翔凛…」

 疑ってなどいないのに…。

「許してくれ…」

 心からの謝罪を込めてもう一度抱きしめる。
 そして、これ以上の無茶はさせられないと、悠風はその身体を引こうとした。
 
 だが…。


「…や、だっ」

「翔凛…?」

「はなれちゃ…やだ…」

「…でも…」

「やだ、はなさないで…っ」



 弱った体のどこに残っていたのか。
 思いもかけないほどの力でしがみつかれ、悠風は自らの意志で理性を振り切った。

「…どうなっても知らないからな」


 もう、あとは二人で上りつめるだけ。

 悠風は、更に強く、翔凛の内をかき乱し、固く抱きしめあったまま、お互いの欲望を解き放った。



                   ☆ .。.:*・゜



 汗をよく吸い取るという柔らかい布で、ぐったりと眠る翔凛を幾重にも包み、悠風はその身体を楽な姿勢にして抱きしめる。

 熱に染まる頬はかなり扇情的なのだが、むろんこれ以上の無体ができようはずはない。

 ただ、柔らかく抱きしめて、熱の苦痛が早く去るのを見守るしかない。




 あと少しで王位に就く悠風。
 だが、出来るだけ早く自分は退位して、翔凛を王に据えたい。
 漣基は第二皇子、自身は第三王子であった。
 しかし翔凛は違う。
 統治者の継嗣として幼い頃から厳しく教育を受けてきた。
 そんな翔凛と自分。統治者としての能力の差はもうすでにはっきりとしている。
 この国の為にも、翔凛自身の為にも、出来るだけ早く、王位に就かせたい。



「翔凛…その時は私が全身全霊でお前を守り、助けて行くからな…」



 その決意の前に『余計な嫉妬心を抱かない』と言う誓いが必要なことには、この際目をつぶって…。




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