「沈み行く光は…君」

君が幸せであるために…その後。



 


 僕がそれを見かけたのは、ほんの偶然だった。

 この町から離れるために足を踏み入れた駅。

 その改札口を入ってすぐのところに貼ってあったポスター。

 青い空と海は、どこが境界線かわからないほど一つに溶けて、遠くに一つだけ浮かぶ雲は、空の青をより鮮やかに見せて、緑を延べる樹は射し込む光から守ってくれる…。



 南の島…。





 結局僕は、自分が思っていたほど遠くには来られなかった。

 けれど、僕が生きてきた場所からはうんと遠い。

 ここは、何もかもが違った。

 空気の色も、風の音も、雨の匂いも…。

 僕は、本当に何も知らずに生きてきたんだと、この時もう一度思った。

 僕の知らない世界。僕はそれを…知りたいと思った。

 けれど、もう、必要はない。

 僕はもう、息をしていることさえもどかしいんだ。



 
 照りつけていた太陽が、その朱さを一層増して水平線に沈もうとしている。

 僕が見る最後の太陽。

 僕の名前は陽の光。

 だから、今、沈み行く光と共に夜に入ろう。

 真っ暗な世界も、もしかしたら居心地がいいかもしれない。

 何も見えず、何も聞こえず。



 ああ…、身体にまとわりつく水が、気持ちいい…。

 ここで時間を止めて、僕は一人で静かに眠る。
 
 あなたが幸せであるようにと願いながら。


2001.6.12 10万記念感謝祭にてUP

NEXT 『君は…』へ続く