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僕がそれを見かけたのは、ほんの偶然だった。
この町から離れるために足を踏み入れた駅。
その改札口を入ってすぐのところに貼ってあったポスター。
青い空と海は、どこが境界線かわからないほど一つに溶けて、遠くに一つだけ浮かぶ雲は、空の青をより鮮やかに見せて、緑を延べる樹は射し込む光から守ってくれる…。
南の島…。
結局僕は、自分が思っていたほど遠くには来られなかった。
けれど、僕が生きてきた場所からはうんと遠い。
ここは、何もかもが違った。
空気の色も、風の音も、雨の匂いも…。
僕は、本当に何も知らずに生きてきたんだと、この時もう一度思った。
僕の知らない世界。僕はそれを…知りたいと思った。
けれど、もう、必要はない。
僕はもう、息をしていることさえもどかしいんだ。
照りつけていた太陽が、その朱さを一層増して水平線に沈もうとしている。
僕が見る最後の太陽。
僕の名前は陽の光。
だから、今、沈み行く光と共に夜に入ろう。
真っ暗な世界も、もしかしたら居心地がいいかもしれない。
何も見えず、何も聞こえず。
ああ…、身体にまとわりつく水が、気持ちいい…。
ここで時間を止めて、僕は一人で静かに眠る。
あなたが幸せであるようにと願いながら。
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