秘密の春休みの…さらに秘密

〜できたてカップルの、もどかしいお初物語〜

R−18だよ〜ん。お子さまは回れ右(^_^)ノ""





 初めて入った東吾の部屋は、リビングやダイニングの『完璧にコーディネイトされた』設えとは違って、なんだか落ち着く空間だった。

 広いし、調度は整っているのだが、確かにそこが『東吾の部屋』であるという証のように、テニスに関するあれこれで埋められている。

 一年のほとんど、主が帰らない部屋ではあるけれど、でも、こここそが、東吾だけのプライベートな空間。

 その中を、二人は手を繋いだまま、真っ直ぐにベッドに向かった。

 東吾のベッドはセミダブル。

 寮のそれよりかなり広いが、男子高校生2人で寝るにはやっぱり少し狭い。
 けれど、そんなことを感じるほどもなく、二人、しっかりくっついていればいいことで…。



 ベッドに入ってしまったら、急に身体の熱が上がり始めて、お互いに相手からむしり取るようにパジャマを剥がしてしまった。

 けれど、ここまでくると、ふと現実に返る。


 ここから先、どうしよう?


 実は陽司、知識だけは万全なのだが、イメージトレーニングには少しばかり自信がないのだ。

 もちろん東吾相手の妄想など、イヤと言うほど経験アリだ。
 だが、妄想の中の東吾は当然、自分の思うとおりに動いてくれるわけだから、実戦向きのイメトレだったとは言い難い。

 それに、今夜こういうことになるとは夢にも――いや、夢には見たのだが――思わなかったから、なんの準備もしていない。



「な、東吾。俺何にも用意してないけど、大丈夫?」

 覆い被さるようにして様子を伺うと、東吾は真っ黒な瞳をクルンと向けてきた。

「…用意って?」
「あ、いや、その、色々と、ほら」
「なんか用意がいるのか?」

 どうやら本気で聞いているらしい。
 
 やっぱり、誘ってくれた(?)わりには、東吾の『正しくも生々しい知識』は乏しそうだ。


「ええと、守先輩が言うには…」
「守〜?」


 どうしてここに『守』が出てくるのか。


「もしかして、お前も守に何か聞いたのか?」

「…『も』って何? まさか東吾も…」


 いや〜な予感がする。
 まさか自分だけでなく、東吾も守にレクチャーを受けていたというのか。

 いや、『あの人』なら喜んでやりそうだけど。


「で、守先輩はなんて?」

 東吾はいったい何と言われたのか。
 優しく髪を梳きながら聞いてみる。

「えっと、『お前は転がってるだけでいいんだよ。あとは早坂が何とかしてくれるから』って」

『そうなのか?』…と小首を傾げてみせる東吾に、陽司は『ははっ…』と乾いた笑いを漏らすしかない。


 ったく、…守先輩……無責任なこと言いやがって…。


 ま、妙な知識を植え付けられるよりはいいけれど。


「じゃあ、『師匠』の教えの通りにしような、東吾」

 確かに何の用意もないけれど、『そう言うとき』のための対処法も一応聞いてあるし。


 陽司の優しい微笑みに、東吾は神妙に小さく頷いて目を閉じた。


 まずはキス。
 何度もキス。
 浅いのから深いのまでいろいろ。

「…ふ…っ」

 東吾の息が上がり始めたら、次は頬から首筋にキス。
 見えないところにちょっと痕をつけるも良し。

「んっ」

 キュッと吸い上げると、ほんの小さな喘ぎが漏れる。
 それだけで陽司の熱は一気に上がっていしまい、危うく暴走しそうになるが…。


『東吾みたいなタイプは最初に怖がらせちまったら後々大変だからな。最初はこれでもかってくらい、慎重にいけよ』

 守師匠のお言葉が蘇る。

 だから、東吾にはわからないようにちょっと深呼吸なんかしたりして、気持ちを落ち着けてみたり。



 首筋からちょっと下がれば、ささやかな可愛い飾りが見えてくる。

 舌先でペロッと舐めてみると、東吾が派手に身を捩った。

「…ひぇっ」


 ひぇっ…はないと思うんだけど。


 でもそんな反応の一つ一つが愛おしくて堪らないほどに、自分は東吾にどっぷりと溺れている。
 嬉しいぐらいに。


 捩る身体を乱暴にならないように慎重に押さえながら、胸先への愛撫を執拗に繰り返す。

 そして、東吾の息に熱いものが混じり始めたのを見計らって、陽司は利き手を東吾自身に伸ばした。

 けれど、この前と同じ失敗はしない。
 東吾が気持ちよくなれるように。
 決して追い上げるばかりが目的ではないように。

「…あっ、あ…よう、じ…」

 東吾がギュッとしがみついてきた。

「とうご…すき、だよ」

 陽司もギュッと抱き寄せながら、利き手の動きを少しばかり強くしてみる。

「んっ、んーっ」

 声だけで、限界が近いことがわかる。

 だから、このまま優しく、頂きへ導く。
 
「……っ」

 息を詰めた直後、東吾が陽司の手を濡らした。

「…は…ぁ…」

 心肺機能は部活で鍛えてあるはずなのに、東吾はその胸を激しく上下させて、まだ身体に残る、『置き火』のような快感に耐えている。

 そして陽司が、まだ震えるその細い肩を抱き込んだまま、あやすように2度3度と軽く叩くと、東吾は漸く目を開けた。

「な、んか…すご……」

 潤んだ瞳と掠れた声でそんなことを言われては、ひとたまりもないのだけれど。

 でも、まだこの段階で撃沈するわけにはいかない。
 自分も、東吾も。

「ちょっとごめんな」

 下敷きになっていた東吾の身体を少し横抱きに変え、陽司は濡れた手をそのまま、東吾の後ろへ回す。

 師匠から『ここで絶対に手を抜くな』と言われた重要ポイントだ。
 受け入れる側に一方的な無理を強いる、二人の関係のためには絶対必要なこと。

 ここで、深く繋がるために…。


 濡れた指を浅くそっと押し込んでみる。

「わっ」

 …予想通りの反応ではあるけれど。

「よ、ようじ…」

 そんな捨てられた子犬のような目で縋らないで欲しい。
 可愛いけど。

「なに?」

 聞きながらゆるゆると動かしてみる。
 だが、東吾はそれ以上言葉を返すことなく、陽司にギュッとしがみついてきた。
 行為の意味はわかってはいるのだろう。多分。

 だから、少しずつ抵抗が薄れてきたのを感じた頃、少し深く、クッと押し込んでみた。

「…や、きもち…わる、い」

 腕を突っ張ろうとする東吾を陽司はもう一度抱きしめ直す。

「ん、ごめんな。でも、もうちょっとだから」

 多分、もう少し奥へ侵入しないと師匠に聞いた『スポット』は探り当てられないだろう。
 慎重に、慎重に、焦れったいほど慎重に、そろそろと指を進めて…。



『あれ?』っと思うものに触れたとたん、東吾の身体がビクッとはねた。

「これか」

 思わず呟いてしまった。

「…な、なに?」
「東吾の一番いいところ見っけ」

 その言葉に『なんのことだ』と問う間もなく、東吾はまた盛大に身体をしならせた。

 その『いいところ』とやらを立て続けに触れられては、もう言葉にはならない。

「あっ…あ…っ」

 強すぎる快感から逃れようとしているのか、暴れ始めた東吾の足を、陽司は自分の足で器用に絡め取りながら、侵入させる指をもう1本増やしてみた。

「…あ、んっ」


 …うっわ…やば。 声だけで連れていかれそう…。


 東吾は2度目の限界が近いように見える。
 自分だってもうとっくに限界ではあるけれど。


 そろそろいいかな?


 全身を淡い朱色に染めてのたうつ東吾の様子に、師匠に教わった『頃合い』かと踏んで、陽司は奥深くまで侵入していた指を引き抜くと、東吾の両足首を掴んで有無を言わせず左右に大きく開いた。

 途端に東吾は我に返った。

「…ちょ、こんなの、恥ずかしいって…っ」

 整わない息のまま、抗議してくる。

 相手にすべてを晒してしまうこの体勢はあまりに恥ずかしい。

「…そんなこと言ったって」

 だがこうしないと出来るモノも出来ない。

「と、とにかくっ、こんなのヤダってっ」
「仕方ないなあ」

 本当は顔を見ていたかったんだけど。

「じゃあ、これで」
 
 いいざまに軽い東吾をくるっとひっくり返す。

 ま、こっちの方が身体は楽だという話も聞くし。

「…わわっ」

 あっという間に四つん這いにされてしまった。しかもその背中には陽司の温もりがぴったりと張り付いて…。

「これならいい?」
「やだっ」

 …即答されてしまった。

「どうして?」
「は、恥ずかしいっ」

 いや、今さらそれを言われても。

 だが東吾は背中まで赤くなって、ふるふると頭を振る。
 そして、不自然に首を捻り、陽司を見つめてこう言った。

「こっ、こうなったら…」
「こうなったら?」

「逆でいこうっ」

 …は? 逆?

「俺が上でお前が下! これなら大丈夫かもっ」


 ええと。


「それってもしかして『騎乗位』ならOKってこと?」
「…へ? 『きじょうい』?」

 東吾だって健全な男子高校生だ。しかも男子寮生活満5年。そういう『二次元限定』の妙な知識だけは豊富にある。

 だから、落ち着いて漢字に変換してみると…。


 はいぃぃぃ〜?


「ば、ばかやろっ、『上』の意味が違うっ」

 ということは、まさか東吾は本気で陽司を組み敷こうとでも思ったのか?
 ならば、さっきまでの行為はいったいなんだというのだ。

「ご冗談でしょ」

 軽くいなして陽司は再びころんと東吾の身体を仰向けた。
 そして今度は東吾がとやかくいう間もなく、その両足の間に身体を割り込ませる。

 がっちりした陽司の身体を挟まされては、もうどうしようもない。

「…う」

 あまりに恥ずかしい己の格好に、東吾は思わずきつく目を閉じる。
 
 陽司はその瞼にそっとキスを落として囁いた。

「大丈夫だから…。俺に任せて」

 だが、格好良く決めてみたものの、このセリフ、前半は本心だが後半はまったくの「はったり」だ。
 けれど師匠が言ったのだ。

『ま、こういうことって9割がはったりだからな。肝心なのはそれを「ホンモノ」に見せるワザだ』…な〜んて。
 

 さすが聖陵学院ナンバー1のプレイボーイは言うことが違う…と妙に感心はしたのだが、ともかく、『こういうこと』に関して相手を傷つけたり不安がらせたりしないように気を配るのは、男として当然のこと…と教えてもらった。

 それに、こんなに幸せな行為が『恥ずかしいこと』であるはずがない。

 そこのところを、これから東吾にもよ〜くわかってもらわねばならない。

 だから…。

「とうご…大好きだよ」

 もう一度耳元で優しく囁いてから、ギュッと抱きしめる。

 そして…。



「うーん。きつくなってる」

 時間を掛けて丹念に解したはずなのに、ごちゃごちゃ言ってる間にすでに東吾のそこは慎ましくも閉じ始めている。

 こうなったらあの手しかない。

 師匠直伝――とはいってももちろん実践で教えてもらったわけではないが――『ローション・オイル・ゼリー・その他…など、滑りをよくするためのものが何もないときのための最終手段』だ。

 ただし、『東吾のヤツ、泣いて嫌がるとは思うけどな』との注釈付き。

 でも、傷つけてしまうよりはマシだから。


「東吾、ちょっと我慢な」

 言われて東吾は、すでに閉じていた目をさらにギュッと瞑った。

 多分、彼が予測しているのは陽司自身の『侵入』によってもたらされる『衝撃』。

 膝裏に手が当てられ、グッと持ち上げられ…。

 だが。


『ぺろっ』


「ひゃぁっ!」


 やってきたのは何とももどかしく、くすぐったい感触。しかも濡れていたりして。

「よっ、陽司っ、なな、なにやってっ…」

 慌てて目を開けてみれば、そこには信じられない光景が展開されていた。
 陽司が東吾のそこ――自分を受け入れてもらう場所に、舌を這わせていたのだ。

「何って、こうやって濡らして緩めないと、東吾が怪我するじゃん」

『当然でしょ』…と言わんばかりの陽司に、東吾は目眩を起こしてまた目を閉じそうになった…………が。

「いっ、いいってばっ。そんなコトしなくていいから」

 ここでひっくり返っている場合ではない。

「も、いいからっ、来るならさっさと来いよっ」

 ほとんどヤケである。

「でも」
「でもじゃないっ。も、俺、これ以上恥ずかしいのヤダっ」

 言葉と一緒に涙が溢れ出した。

「わっ、ごめんっ、泣かないでっ。わかった、わかったからっ」

 慌てて東吾を胸に抱き込む。

「でも、痛いよ、きっと」

 何よりそれが心配なのだ。痛い思いなんてさせたくない。

「いいから…はや…く」

 胸の下でくぐもった声がした。こうなったらもう、東吾も後には引かないだろう。それは、よくわかっている。

「…ん、…わかった。じゃあ、いくよ?」

 その言葉に小さく頷いた東吾の顔をそっと上げさせ、陽司は深く口づけた。
 もう一度両足を抱え込み、自分に引き寄せる。

 そして、自身をそっと当てがい…。


「……っ」
「ごめんっ、痛い?」

 ちょっと押しつけてみただけなのだけれど、東吾が唇を噛んだから、陽司は速攻でその動きを止めてしまう。

「だ、いじょうぶ、だから…、いちいち、やめるなってば…」

 小さく振るえる腕でしがみつかれ、陽司は今度こそ…と腹を括った。

「とうご…」

 思いの丈を込めて名前を呼ぶ。
 そして、その思いの強さをそのまま、東吾に向けた。

「…んっ、…っ!」

 抱え上げられた東吾の足が、つま先まで突っ張る。

 覚悟していた以上の圧迫感、そして痛みがゆっくりと身体を押し上げて侵食してくる。
 でも、絶対やめて欲しいとは言わない。
 望んだのは自分…なのだから。

「東吾、大丈夫?」

 動きを止めた陽司が気遣わしげに囁く。
 額に浮かぶ汗を拭ってくれる指もこれ以上ないほど優しく触れて。

「…よう、じ…」
「わかる? 俺、東吾の中にいるよ」
「…ん」

 信じられないほど自分の中いっぱいに満ちている陽司を感じて、東吾は小さく頷いた。

 苦しいけど、痛いけど、でも…すっごく幸せかもしれない。

「ようじ…」
「なに?」
「…動いて、いいよ」

 この状態でじっとしていることがどれだけ辛いことか、自分も同じ男だからよくわかる。

「ようじの、したいように…」

 そう告げて、東吾は柔らかく微笑んだ。

「…とうご」

 もう一度、きつく抱きしめる。

「…ありがとう…」

 そして、ほんの少し、揺すってみる。



                   ☆ .。.:*・゜



 で。
 東吾は今、自分の言葉をちょっと…いや、かなり後悔していたりする。

「や、ああっ…っ……あ…やぁっ…」

 陽司の腰の動きに容赦がなくなって、随分経つ。
 あれからさらに2回も昇天させられて、陽司だって確かに1度は自分の中で果てた様子なのに、息を整える暇もなくいつの間にやら次のラウンドにもつれ込んでいる。

 声はすでに涸れていて、その掠れ具合がまた陽司を煽っているのだが、そんなこと東吾の知ったことではない。


「とうご…とうご……」

 …頼むから、耳を噛みながらそんな甘い声で呼ばないで欲しい。

 でも、そんな『抗議』も当然言葉にはならなくて。

「も…やっ…んっ」

 いよいよ激しい突き上げに耐えきれなくなって、首を左右にうち振りながら、東吾は甘い喘ぎを撒き散らす。
 しかも陽司にしっかりとしがみついたまま。

 だからそんな様子は当然『火に油』。
 陽司はますます燃え上がるばかりだ。


 ああっ、もうっ、可愛いし、気持ちいいし、俺、バカになっちゃいそう…。



 …いや、もうとっくにバカだって。



 この時東吾が、遠ざかる意識の下で、『学校では絶対にパスっ』と心に決めていたなんて、もちろん陽司は知らない。



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