「I Love まりちゃん」外伝

空飛ぶ33階
おまけ

双子、淳くんに会う。


 

「は、はじめまして」


 う、久々に詰まってしまった。

 僕の目の前には、区別がつかないほどそっくりな美人が2人。

 けれどそんな2人を初対面の僕でも見分けがつくようにしてくれているのは、向かって右の美人が掛けている、これでもかというくらい硬質な印象を与える縁なしメガネ。

 いかにも頭の良さそうな彼女は、そのキラリと光るレンズの奥から真っ黒で大きな瞳をジッと僕に向けている。

 そして、向かって左の美人は、メガネがない分だけ印象は柔らかいけれど、でも、やっぱり真っ黒で知的に光る大きな瞳を僕にジッと向けて…。

 う。どうしよう…。せっかくアーニャと春姫ちゃんがお膳立てしてくれたんだけど、やっぱり、会うにはまだ早かったんじゃ…。


「マジ?」
「ウソでしょ」

 美人が揃って呟いた。

「本物の方がもっと可愛いじゃないの」

 メガネの美人が右を向いて言うと…、

「しかも超スタイルいいし」

 左を向いて、もう1人の美人が答える。

「ね、触ってみたくない?」
「みたい」

 何を?

 頷きあった2人は、また僕をジッと見つめると、つかつかと寄ってきた。

 そして。

「「うふ」」

 僕を見上げて突然表情を緩めると、両側から僕の腕にぶら下がってきた。

「「はじめまして〜!」」

 ステレオで聞こえてくる声もそっくりだ。

 でも違うのは…。

「次女の冬那で〜す」
「三女の夏実で〜す」

 2人の名前。

「「よろしくねっ」」

「あっ、はいっ、よろしくお願いしますっ」

「や〜ん、同い年なんだから敬語はなしよ」

「そうそう、それに兄妹になるんだから、もっとざっくばらんにね」

 あ、そう言ってもらえるのはとっても嬉し…。

「おいっ、何嬉しそうに触ってるんだっ」

 言葉と共に、僕の腕から2人が引き剥がされようとしたんだけど。

「もー、なによお兄ちゃん、邪魔しないでよ〜」

「そうよそうよ、兄妹の親交を温めてるのに〜」

「なにが兄妹の親交だっ。親交を深めたいなら話をすればいいだろうがっ」

「だからー、こうやってボディランゲージ」

 言うなり、冬那さん――じゃなくて、こっちは夏実さんだ――が、僕の胸をするりと撫でた。

 …ひ…。
 …あ…あぶなかった…。

 危うく変な声が出そうになったのを必死で飲み込んで、僕が夏実さんの手からさりげなく身をかわそうとした……ら。

「きゃ〜、触り心地もいいし〜」

 今度こそ冬那さん――だよな、メガネかけてるし――が、僕の腰に手を回す。

 …ちょ…そこはヤバ……っ。

 最近誰かさんの所為で、僕の身体はどこもかしこも異様に敏感になっていて、ちょっとした刺激にも大げさな反応になってしまって恥ずかしいことこの上ない。

 もちろん、ただ触れたぐらいではそんなことにはならないんだけど、こうやって明確に目的を持って触られちゃったりすると、もの凄くマズイっ。

 だから慌てて身体を捻ったんだけど、慌てた所為でよろけてしまった僕を、がっしりとした腕が抱き留めた。

「お〜ま〜え〜ら〜は〜」

 もちろん、そのがっしりとした腕の主は、和彦さんなんだけど。

「触るなって言ってるだろうがっ!」

 僕を腕の中に囲い込んで、二人の美人を威嚇するんだけど、もちろん二人ともどこ吹く風。

「いやだぁ」
「男の嫉妬って」
「見苦しいわよ」
「ね〜」

 …お見事な連携。

「見苦しくて結構っ!」

 和彦さん、遊ばれてるっぽいんですけど…。

「ふ〜んだ」
「いいも〜ん」
「今度お兄ちゃんが出張行ってる隙に」
「淳くんと遊んじゃうんだもん」
「ね〜」

 またまた見事な連携を見せた二人だけど、今度こそキレた和彦さんに、二人はポイッと部屋から放り出されてしまった。

『淳く〜ん』
『今度3人で』
『飲みに行こう』
『ね〜!』

 閉まったドアの向こうから、またしても聞こえた連携プレーに、僕も「はい!」って答えたんだけど、その瞬間に口を塞がれちゃったりして。
 

 こうして、和彦さんの双子の妹さんたちと僕の、初めての対面は、どうにかこうにか無事に……

「…淳」

 和彦さんが耳元で妖しく囁いた。

「お仕置きだから、覚悟しておけよ」

 …え?

「…な、なんでですかっ?」

 僕は何にも…

「お前、触られて感じてただろう…」

 え〜!?

「だ、だってそれは、和彦さんが…っ」

「俺が?」

 ニッと妖しく微笑まれて、僕は言葉を飲み込んだ。

 あああ…やばいよ…。明日は休みだから、今夜はきっと…寝かせてもらえない……。






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ここで一句。

おにいちゃん あっちもこっちも 敵だらけ


おそまつ。

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