「I Love まりちゃん」外伝
空飛ぶ33階
〜3〜
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気になって気になってしようがなくて、いっそのこと聞いてしまおうかと思ったんだけれど、その機会は掴めなかった。 サンフランシスコの空港に着いたら、すでに取引先がリムジンを回してくれていて、仕事モードに切り替えざるを得なかったからだ。 …って、引きずってるのは僕だけなのかも知れない。 だって、やっぱりというか何というか、和彦さんは空港を出た瞬間、見事に『オン』に切り替えていて、さっきまで機中の様子なんてどこにも残していない。 上下左右、どこから見ても完璧な『MAJECナンバー2』だ。 そんな『室長』を見て、『仕方ないから自分も切り替えるしかない』…なんて思ってる僕は、秘書としてまだまだダメダメで、密かにしっかり落ち込んだ。 けれど取引先の社へ到着してからは、さすがに僕も落ち込んでいる暇はなく――実質は室長のおまけで付いているだけのようなものだったけれど――気を張って、室長と先方のやりとりに耳を凝らしていた。 先方は念願だったMAJECとの取引にこぎ着けて終始上機嫌。 けれどかなり緊張もしている様子で、とにかく『この取引を離してなるものか』という気合いに溢れていて、何かと疲れる。 しかも、しっかりディナーにまで連れ出され――接待って食べた気がしなくて好きじゃないんだけれど――ホテルまで送ってもらった時にはすでに深夜に近い時間になっていた。 和彦さん、疲れただろうな。今日もずっと、頭のてっぺんから足の先まで余すところなく完璧だったし。今夜はゆっくり寝かせてあげないと。 用意されていた部屋は、取引先の気合いをだめ押しで現しているような部屋だった。 プレジデンシャルスィートという、とんでもなく広く、しかも男性2人が泊まるのにこの部屋はどうよ…っていうくらい、ロマンチックな部屋。 これはどっちかって言うと、ハネムーン用…だよなあ。 ベッドに花びらでハートが描かれてなくて良かった…って感じだ。 …って、何を恥ずかしいこと考え…、 「うわっ」 「…うわっ…ってなあ」 耳元で和彦さんがクスクス笑う。 その雰囲気は、さっきまでの『オン』の空気を綺麗さっぱり脱ぎ捨てている。 僕が思わず飛び上がったのは、背後からがっちり回された白いワイシャツに包まれた腕の所為だ。 いつのまに上着を脱いだんだろう。 考え事してた所為で、真後ろに和彦さんが来たことすら気が付かなかった僕は、いきなりギュッと抱きしめられて、思わず大きな声を出しちゃったんだ。もう〜。 「顔が赤いぞ、淳。何を考えてた?」 肩越しに後ろから頬を合わされて囁かれるのは実は苦手。 だって…。 「熱くなった…」 和彦さんが腕の中の僕の体温の変化を感じ取る。 背後からって、何もかもを暴かれてしまいそうな気がして怖いんだ。 正面だったら、こっちからギュッとしがみついてしまうこともできるけど、背後からでは僕はいったいどうしたらいいかわかんなくて、狼狽えるばかり。 しかもこんな風に、頬まで密着されてしまうと…。 「…淳……」 耳に直接囁かれて、僕の身体がさらに熱くなる。 や、ダメだって。ここで流されちゃいけない。 和彦さんをゆっくりと休ませてあげないといけないんだから。 思い切って僕は、抱きしめられた腕の中で身体を捻り、正面に向き直った。 「お疲れでしょう?」 いつもならあっさりと流されてしまう僕が、いきなり向きを変えたことで、和彦さんはほんのちょっと目を瞠って、それから優しく微笑んだ。 「ん? いいや、全然」 そう言う和彦さんは、強がっている風ではないけれど…。 「まあ、ちょっと過剰接待だったが、あの手の経営者はやり易い部類だろう。裏まで透けて見えるタイプだからな。こちらに取りこぼしさえなければ問題はない」 「でも…」 僕を抱きしめる腕は、なんだかちょっと甘えてるようにも思えるんだけど、それはやっぱり考えすぎなんだろうか。 まだ心配そうにする僕に、和彦さんはちょっと苦笑して、ちょっとため息をついた。 「そうだな…。疲れているとしたら……」 疲れているとしたら? 「……いや、何でもないよ」 あ。今のはちょっと無理があったんじゃ…。 「和彦さん…」 もしかして、和彦さんを疲れさせたのは、機内での…。 やっぱり聞きたい。和彦さんとアーニャのこと。 「淳こそ疲れただろう? 明日は午後からだし、行き先は気心の知れた古くからの取引先だからな。気楽にしていていい」 啄むようなキスをして髪を撫でられるとなんだかボーっとしちゃうんだけど…。 でも…。 「さて、せっかく豪華な部屋の無駄に広いバスルームがあるんだから、楽しまなければ損だな」 は? ええと。和彦さん。その手はいったい何を。 ウキウキと僕のネクタイを解き、上着をスルッと剥がしてしまってベッドの上に放り投げ、あっさりとシャツのボタンを外されて、そこで初めて僕は慌てた。 「あ、あのっ」 「なんだ?」 「な、何をっ?」 「何をってなあ。この状況なら『一緒にシャワー』しかないだろう?」 「…ええ〜!?」 「ええ〜…じゃない。ほら、バンザイして」 って、ついうっかりと素直に言われたとおりにしてしまい、アンダーシャツまでつるんと脱がされた僕はもう、ひたすら慌てるしかない。 「や、その、シャワーは別々で…」 だ、だって和彦さん、きっと疲れてて…。 「広いから大丈夫」 や、そう言う問題ではなくてっ。 だいたい『一緒にシャワー』なんて、2月に2人で旅行に行った時、初めて経験してしまって、あの時の恥ずかしさと言ったらなくて、これなら灯りを落としたベッドルームの方が百倍マシ…なんて思ったくらいだ。 しかも明るいだけじゃなくて、声とか響くし…。 あ、だめだ。思い出しただけで憤死しそう…。 って、ぐるぐる考えている間にちゃっかりと連れ込まれてしまい、その後延々と『明るい』中で『よく響く』声をあげる羽目になった僕は、バスローブにくるまれてベッドに運ばれたことも曖昧なほど、ぶっ飛んでしまったのだった…。 だから、また聞き損ねたんだ。 『アーニャと何かあったの?』 …そう、それが聞きたかったのに…。 ☆ .。.:*・゜ 少し苛めすぎただろうか。 涙の筋を残す淳のこめかみに柔らかくキスをして、眠りに沈んでいる華奢な身体を楽な姿勢に抱き込む。 出張だからといって禁欲する気は毛頭なかったが、それにしてもここまでがっついた気分になってしまうとは思ってもいなかった。 縋り付いてくる腕の熱さに気をよくして、甘く切羽詰まった声で何度も名を呼ばれてすっかり煽られて、かなり好き放題に抱いてしまった。 己の余裕や辛抱の無さにも呆れてしまうが、そもそも機中の思わぬ出会いがまずかったのだ。 せっかく淳といちゃいちゃして楽しもうと思っていたのに、突然の闖入者にすっかり邪魔されてしまった。 だいたいあれが北米路線を飛んでいるなんて思いもしなかった。 普段はヨーロッパ路線を飛んでいるはずなのに。 しかもだ。 いつの間に淳と知り合って、おまけにあんなに親しくなっているとは何事だ。 しかもしかも。 淳はすっかりくつろいだ表情で『アーニャ』なんて呼んでいるではないか。 いったいいつ出会ってあんなことになったと言うのだ。 淳の口からは何も聞いていない。 …そうだ。確か『今日は会長のお供ではないのね』と言っていた。 と言うことは、2人を引き合わせたのは紛れもなく会長…ということだ。 そもそもそれくらいしか接点が思い浮かばない。 しかも会長はそれを自分に――いや、自分にだけではなく、淳にも黙っていた…と。 これはもう確信犯だ。 面白がってやっているに違いない。なんてボスだ。 いや、ボスの性格はイヤと言うほどわかってはいるが。 …しかし、これからどうしたものか。 こうも告白の機会をくじかれると、素直に吐くのは業腹な気がする。 けれど、あの態度からすると、もしかしたら気付かれているのかもしれない。 いや、冷静に分析してみればそう考える方が妥当だろう。 だからこそ、淳は『アーニャ』と呼んでいるのだ。 「…ん……」 身じろいだ淳の身体を柔らかく抱き直し、和彦は、だだっ広い寝室の、遠くの間接照明をぼんやりと見る。 ――やられたな…。 だがこうなると、ますます素直に吐く気がしなくなる。 こうなったら、当分しらを切ってやる。 そう決めて、和彦は、淳の柔らかい髪に優しい口づけを落としながらゆっくりと目を閉じた。 ☆ .。.:*・゜ さすがというか何というか。 昨夜、もうこれ以上は声もあげられない…ってくらい、和彦さんの好き放題にされてしまい、眠りに落ちながら、『明日、起きられるんだろうか…』って心配しちゃったくらいなんだけれど、割と…ううん、かなりすっきりと僕は目覚めて、身体も辛くはない。 そんな僕に、和彦さんは『当たり前だ。ちゃんと手加減したからな』なんて笑うんだけれど、あれで手加減されてたなんて…。 手加減ナシって、どんなだろう…。 いや、怖いから経験してみたいとは思わないんだけど…。 とりあえず、シャワーを浴びて――さすがに今度は1人で浴びさせてくれたけど――出かけるのは午後だからとゆっくり朝食を摂って、のんびり身支度を整えて迎えの車を待った。 その間、僕は何度かアーニャのことを聞こうとはしたんだけれど、和彦さんは終始僕にちょっかいを掛けていて、なかなか会話の端っこが掴めないままになった。 もしかしたら、はぐらかされているのかも知れない。 和彦さんはそう言う話術にも長けていて、スルッと会話を取り替えてしまうことなんてお手の物だ。 会長が『私と良い勝負だな』っていうくらいだから、本当に相当なものだと思う。 そんな和彦さんに、やっと入社一年が過ぎてどうにかこうにか自分の足で立てるようになり始めた僕なんかが敵うわけもなく、ゆっくり話す時間がかなりあったにも関わらず、僕は聞きたいことのこれっぽっちも聞き出せなかった。 そして、午後になり、またしても無理矢理『オン』に切り替えるしかなく…。 ☆ .。.:*・゜ 僕たちが訪ねた先は、MAJECの古くからの取引先。 会長の旧友が経営する会社で、規模は小さいけれど誠実な仕事をしてくれる、MAJECにとってなくてなならない取引先だ。 50代半ばらしき社長は、恰幅の良い見た目の通り大らかな人。 もちろん和彦さんにとっても親しい相手なんだけれど、社長は和彦さんのことを本当の息子のように思っているんだ…なんて僕に教えてくれた。 で、そこに思わぬ人物がやってきた。 「なんでお前がここにいるんだ」 「酷いなあ、和彦。現在この重要な取引先の担当は僕のチームなんだってこと忘れたのかい?」 長身で金髪碧眼。 ちょっとマッチョな身体を上質のスーツに包み、欧米人らしい仕草で肩を竦めたのはNY支社のカイト。 和彦さんと同じ歳の彼は北米の営業陣の中でも群を抜いた切れ者で、会長の覚えもめでたいやり手の社員だ。 今現在でも大きなチームのリーダーなんだけれど、もしかしたら30代でNY支社のTOPに登り詰めるかも知れないとまで言われている。 そんな彼に、開口一番、和彦さんが掛けたのは身も蓋も無いような言葉で、けれどカイトも気にしている風もない。 「忘れるもんか。けれどわざわざお前が出ばってくることはないだろう? 若手に任せればいいものを。だいたいNYは今日、マーケティングの会議があったはずだ」 …すごい。和彦さん、NY支社のスケジュールまで頭に入ってる…。 「淳が一緒に来るって聞いたんだ。だからスケジュールを前倒しにして顔を見に来たってわけ。ちゃんと会議は終わらせてきたからご心配なく」 さすがカイト、そつが無いというか…って…え? 僕の顔? 「なんでお前が淳の顔を見に来なきゃならんのだ」 そうそう、何で僕。 「そりゃ、僕の愛しくて可愛い淳だからね。遠く太平洋を隔てて思うように会えないんだから、こんなチャンスを逃す手はないさ」 …って、面白くないジョーク。 「ね、淳」 おまけに肩まで抱いちゃって。 ほんと、アメリカ人ってこの手のジョーク好きだよな。 日本でやったらセクハラだよ。…って、僕は男だからいいけど。 「えっと、カイト。そんなことはさておいて…」 わざわざカイトがやって来た目的ってなんだろう。 何か重要事案でもあるのかな。 それを聞こうとしたのに、何故かカイトはがっくりと肩を落としていて、和彦さんは何故か鼻で笑ってるし。 「せっかくやって来たのに残念だったな、カイト」 え、何々? 何が残念? やっぱり何か重大なことが…。 僕は何かを聞き漏らしたんだろうかと焦ったんだけど、和彦さんはどうしてか勝ち誇ったような顔をして、僕の肩にかかっていたカイトの腕を摘み上げて放り投げた。 ちょうどその時。 『カズヒコ、ちょっと来てくれないか?』 顔を出したのは、電話がかかったといって中座していた社長。 会長に渡して欲しい物があると言って和彦さんを呼び、僕にはと言うと、『これが終わったらオススメのスィーツを食べに連れていってあげよう。だからいい子で待ってるんだよ』…なんて、まるっきり子供扱いの言葉――まあ和彦さんに比べたら子供も同然だけどさ…――を掛けて出ていった。 そして、こじんまりとしているけれど、趣味良くまとめられた使いやすい応接室には僕とカイトの二人きりに…。 「淳」 「はい?」 そうそう。どうしてカイトがここまでやってきたのかって…、 「僕の気持ちはちゃんと君に伝わってないのだろうか」 「へ?」 カイトの気持ち? 何それ。 「ええと、ごめんなさい。僕はまだ未熟なもので、本社秘書と言っても知らないこともいっぱいで、カイトのチームとこちらの間でのことについても把握しきれてなくて…」 わからないことは素直に謝って教えを乞う。 これは、後々の仕事に要らぬミスを生まないための必須事項。 会長にも和彦さんにも『知らないことを恥だと思うな』って言われてる。 ただし、『一度知ったことは絶対忘れるな』とも言われてるけど。 「ああ、もう本当に、この鈍いところも君の可愛さだと言うことだな」 カイトの顔が間近に迫り、妙に暑苦しい眼差しで僕を見る。 そして、あっと思う間もなく、僕はソファーの上に押し倒されていた。 「カ、カイトっ?」 鈍いって何だよっ。酷いじゃないか、僕はちゃんと謝ったのに! 「シッ…。静かに、淳」 静かにって…。 あ、ちょっと待てよっ、どこ触って…っ。 僕のそれとは比べものにならないくらい分厚くてデカイ手が僕のネクタイにかかった。 その瞬間、カイトの瞳に何かギラギラとしたものを感じた僕は、まさかこのまま絞め殺されるんじゃ…と、恐怖に身を竦めたんだけれど、僕の恐怖に反してネクタイはスルッと解かれた。 「淳…愛してるよ」 …ああ〜よかった。絞め殺される訳じゃ…………って………………え? あ、愛? アイシテル? 「初めて君にあった日から、ずっと君を想ってきたんだ。可愛くて素直で優秀で、まさに君は理想のハニーだ」 …ちょ…、 「ちょっと待った〜!」 容赦なく近づいてきた肉厚の唇を、僕は慌てて両手で覆った。 そしてそのまま必死で押し返すんだけれど、体格差はそのまま力の差ってわけで…。 もうダメかも…っ。 そう思った時。 いきなりカイトの身体が浮き上がり、僕の身体が自由になった。 「取引先で事に及ぼうとはいい度胸だな、カイト」 和彦さん…! 「淳はMAJECの未来を担う大事な人材だ。今後同じようなこと仕掛けたら承知しないからな」 言葉だけは冷静だけど、僕にはわかった。 和彦さん、怒ってる…。凄く…。 「か、和彦…。それとこれ…恋愛は別だろう? いくら上司だからって、淳の自由な恋愛を縛る権利は…」 和彦さんよりもう少し大きいのに、カイトは胸ぐらを掴みあげられたまま、震える声で、でも必死で言い返してるんだけど…。 「ふん。そんな察しの悪いことで、よくも遊び人を気取れるものだな、カイト」 「…え?」 和彦さんは、掴み上げていたカイトの胸元を突き飛ばすように放し、いきなり僕を起こして抱き寄せた。 え?…と思った瞬間には、もう僕の唇は、和彦さんのそれでがっちり塞がれていて…。 ぴったりと身体を密着させたまま重ねられたそれは、まるでベッドの中で交わすキスのように、濃厚で、しかも片腕は腰に回されていて妙にアヤシイ動きをして僕を翻弄した。 もうダメ、目が回る…と思った時。 漸く唇が解かれて、ぐったりしてしまった僕は、そのまま和彦さんの胸に張り付いている。 「わかったか、カイト。淳にちょっかい掛けていいのは俺だけだ」 「和彦…」 カイトの声が驚きに掠れている。 その表情は、もう怖くて見る事なんてできなくて…。 「素晴らしいっ!」 ……は? 「和彦、君を見直したよっ。仕事onlyで恋愛もできないカタブツだと思いこんでいたが、こんな情熱的なキスができるなんて、やっぱり君は、ただものじゃないっ。さすが、会長の片腕だけのことはあるよ!」 …ちょっと、そこでどうして会長がでてくるわけ…。や、そうじゃなくてっ。 「淳、もしかして、君と和彦は恋人同士なのかい?」 カイトが僕に、優しく詰め寄る。 こ、こんなところで本当の事を言って、いいんだろうか…。 でも、今の和彦さんのキスはそれをきちんと物語っていて…。 だから。 「……はい」 肯定してしまった。 伏せた僕の視線の先には和彦さんと…一緒に戻ってきていたらしき社長の足元が見えている。 和彦さんもだけれど、社長の反応も怖くて、僕は顔が上げられなかったんだけれど…。 「淳……」 詰めていた息を吐いて、安心したような声色で和彦さんが優しく僕の名を呼んで抱きしめてくれた。 きっと、正しかったんだ。僕の選択は。 そして、僕の肩をポンッと叩いたのは誰あろう、社長その人で。 「ハルユキがとても喜んでいたんだ。カズヒコがやっと生涯の伴侶を見つけたと言ってね。ああ、もちろんそれがジュンだということも聞いていたよ。だから今回会うのを楽しみにしていたんだ」 …って、会長〜、何をべらべら喋ってるんですか、もう〜。 脱力してしまった僕に、けれど社長はさらなる衝撃を…。 「ああ。最初に教えてくれたのはハルユキではなくて、ロンドン支社のMr.Gordonだよ」 はい〜? 「去年の暮れだったかな。クリスマスの頃、会う機会があってね。その時に聞いたんだ。カズヒコがついに恋人を掴まえたってね」 去年の暮れって…。 でも、Mr.Gordonは今年のニューイヤーメールで僕に『和彦の恋人は誰か知ってるか?』って聞いてきたんだけど。 ……ちょっと待った。 ってことは、もしかしてあれは確信犯っ? め、目眩が……。 もしかして『全社的』に弄ばれているんじゃないだろうかと頭を抱えた僕を、和彦さんはまたギュッと抱きしめてくれて、カイトと社長にはっきりと宣言してくれたんだ。 「淳は誰よりも大切な私のパートナーです」…って。 その言葉に社長は祝福をくれて、カイトは『残念だけど諦めるよ』と肩を竦めた。 でも、カイトが僕をそんな風に見ていたなんて、これっぽっちも気がつかなかったんだけど。 あ。もしかして『鈍い』ってそのこと? でも、そんな遠回しにアプローチされたってなあ…。 だいたいなんで僕なわけ? NY支社には『ダブルN』を始め、美人がいっぱいいるのにさ。 ともかくそんなわけで、堂々と恋人宣言してくれた和彦さんに、僕は恥ずかしいながらも思いっきり感動してしまって、その時に、もうアーニャのことは聞くまいと決めたんだ。 過去の和彦さんに何があったにせよ、今は僕だけを愛してくれているのだから、それを信じてついていこうと。 |
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